《MUMEI》
ひとつ、変わらないもの
芝生に転がると草の匂いがした。
橋は公園は前より芝が張られて綺麗になっている。
肌寒いが、暖かい陽射しは瞼を重くした。

欠伸を噛み締めると、頭上から陰が落ちる。


「風邪ひきますよ。」

不意に、聴こえた声には覚えがあった。
随分と雰囲気は変わっていたが、彼は後輩である安西だった。


「……帰ってきてたんだね。」

彼と合ったのは、面会に行った時以来だ。
その時は神経質にぶつぶつ呟きながら、理性をやっと保っていた印象だった。


「無理矢理、付き合わされたんです。」

嫌々ながら帰ってきたのか。


「でも、お陰で会えたよ。」

ずっと、引っ掛かっていた。


「……会いたくなかったんですけどね。穏やかになったように見えますが、年取って丸くなっただけです。」

目を逸らし、俯く。
冗談を言う余裕はあるようだ。


「そんなに変わらないよ。ちょっとだけ、渋くなったかな。」


「貴方に会ったのは試練だったんだと思いたいです……、聖書ばかり読んでました。色んな神に縋って生きてきました。依存して、脆い自分を示すものを探していた。」

靴底が耳元でザリザリと鳴る。


「俺だって一人じゃ生きていけないよ、甘えてばかりだ。
依存じゃない、俺は自分ばっかりだったから力になれなかったけど、相手を慈しむことも出来る。
少なくとも、俺はそれを教えてもらったよ。」

真っすぐに指して、あの時伝えきれなかった気持ちを整理した。


「恐怖や憐れみしか無いと思ってました。」

鼻で笑われた。

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