《MUMEI》

 「随分と閑散とした街だね」
取り敢えずの目的地と定めたウェスト・グリード
大陸一の大都市と称され、人の往来も盛ん
此処でならば何かしら情報が得られるのではとエイジは考えたらしかった
だが、普段の喧騒は影を潜め、今の街の中は何故か静けさばかりが目立つ
その事に違和感を覚えたエイジが手近な大衆食堂の戸を開いてみるが
昼食時にも関わらず、人一人そこに姿が無い
「おや、お客さんかい?すまないね、今日はもう店じまいなんだよ」
店主は客が居ない事に程々困り果てている様子で
明らかに不自然な客の少なさに
エイジは何があったのかを問うてみた
「それがねぇ。ここら一帯で原因不明な病気がはやっててね」
の所為で客の入りがさっぱりなのだ、との店主
溜息かじりに愚痴をこぼした、次の瞬間
何処からともなく、鐘の鳴る音が響いて聞こえ始める
「……またこの音だよ。本っ当、嫌になるね」
初めは微かに
押して段々と近づいてくるようなその音に顔を顰めた
この鐘の音が一体何なのか
解る筈のないエイジがアリスへと向いて直れば
「あいつらの仕業だよ。確実にね」
やはり関わりがある様で
相も変わらず感情の籠らない声でエイジへ言って返す
取り敢えずは音の元を探しに、とエイジ達は店の外へ
「どっちからか分かるか?」
音こそ聞こえるモノの、特定することの出来ないその居所を問うて見れば
アリスは立ち止まり、暫くその音に身を委ねる
どれ位そうしていたのか
「……あっちから聞こえる」
徐に、指をさして示してきた
徐に指をさして、そして走り出した
その後を追うて見れば
行き付いたの紗kには廃墟の様な建物が其処に建つ
一体此処は何なのか
よくよく眺めてみれば、赤い十字の印
ソコで漸くこの場所が病院である事に気付く
「そんな事どうだっていいでしょ。中に入るよ」
見てくれのボロさなど然したる問題ではないのだと
アリスは中へ
入るなりそれまでけたたましく鳴り響いていた鐘の音がピタリと止まった
「……僕たちの存在に気付いたみたいだね」
常に周りにあった気配が途端に消え
後に残ったのはそこを行きかうヒトの喧騒のみ
「……探しに、行こうか」
まだ近くに居る筈だとアリスがエイジの腕を引く
相も変わらず男とは思えないほど綺麗な微笑を向けられてしまえば
どうしてかエイジに否を唱える事など出来ずに
アリスにされるがまま引き摺られていった
「何所まで行く気だ?」
「……あいつが見つかるまで」
交わす会話も短く歩き続け、到着したのは屋上
だが其処には誰の、そして何の気配もなく
一頻り辺りを見回し、アリスは溜息を吐く
「……居ない。本当、逃げ脚の早い奴」
居ないのなら此処に居ても仕方がない、とアリスが踵を返した
次の瞬間
アリスの頭の中に直接、鐘の音が鳴り始めた
突然のソレにアリスの視界が大きく歪み、脚が縺れる
その音が大きくなるに伴い、症状はひどくなっていった
「どうした?」
様子が明らかにおかしいアリスへ
その顔を覗き込んでやれば血の気がいkkに引いていて
「……何?」
アリス自身何が起こったか分からないでいた
だが未だに耳の残る鐘の音に
アリスはこれが原因だと思い到り、憎々し気に舌を打つ
「……やってくれるね」
「アリス?」
すっかり座り込んでしまったアリスへ
一体どうしたのか、またアリスが問うてみれば
その手が徐にエイジへと伸びる
「立てない。抱き上げて」
「は?」
「聞こえなかったの?早く」
求められるがままに抱え上げてやれば
その身体はひどく熱を帯びていて
様子見に、エイジはアリスの額へと己がソレを重ねてやる
「37.8ってとこか。随分いきなりだな」
ソレまでは何ともなかったのに一体どうしたのか
エイジが問う事をしてやれば
その腕にしがみついたまま暫くの無言
乱れていく呼吸をなんとか整え、漸く話し始める
「……さっき、 鐘が鳴ってたでしょ。アレの、所為だよ」
あの鐘は厄災の音色、聞くもの全てに災いを齎すのだと
掠れる声が返ってきた

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