《MUMEI》

居たたまれない気持ちになった俺は、だ、だったら…としどろもどろに言葉を紡ぐ。

「そのことをはっきり言ってくれればいいだろ?そしたら、こっち来たのに」

「…どうせ来ないでしょ?」

「は?」

「はっきり言ったって、どうせ来ないでしょ?電話だって素っ気なかったしさ」

「そんなことねぇよ」

「仕方ないか、わたしのことなんか、興味無いんだもんね!」

「そんなことねぇって言ってんだろ!」

堂々巡りの会話にイライラして、つい声を荒らげてしまった。すぐに後悔したが、遅かった。俺の大声に振り向いた彼女の顔が、一瞬で強張る。怯えたような目をしていた。

テレビのステレオから今の雰囲気に不釣り合いな、やたらムーディーなBGMが流れ出し、冷めきった室内で反響した。液晶画面には、主役の男と女が意味ありげに微笑み合い、ゆっくりと甘いキスを交わした。テレビの向こう側とこちら側の温度差を否応なく思い知らされ、心底うんざりした。

少し間を置いてから彼女はキレイな瞳からスッと感情を消すと、俺から視線をずらして、ひっそりと呟く。


「…そのメモ、もういらない。捨てといて」


ゆらゆらと漂ってきた彼女の声は、まるで幻のように儚かった。


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