《MUMEI》

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「ホントにいいの?」

ホテルを出る前に下着を身に付けていた彼女の背中に、そんな風に声をかけた。彼女は眠そうな顔をして振り返り、「なにが?」と不機嫌そうに逆に尋ね返してきた。

その声の低さに怯みながらも、俺はボソボソと呟いた。

「…俺の彼女ってことで、ホントにいいのかよ?」

彼女はまっすぐ俺の顔を見つめ返し、しばらく黙った後で一度ゆっくり瞬くと、ふんわり微笑んで見せた。


「いいよ…」


それは、告白の返事と全く同じ頼りない台詞で、俺は言い様の無い不安を覚えたのだった。

付き合ってすぐ、俺は彼女に一緒に棲もうよ、と言った。毎日彼女と顔を会わせていれば、この漠然とした不安も和らぐのではないか、と思った。

嫌がられるかな…と心配したが、彼女は意外にもその提案を喜んだ。

「二人で棲むなら、色々必要な物があるよね?今度一緒に、買い物行く?」

これからの二人の生活のことを空想して、それは楽しそうに話し始めた。明るく無邪気な表情で話す彼女は、クールで物静かな第一印象と真逆に感じた。

早く同棲を始めたかったのだが、彼女の親戚に不幸があったり、俺の仕事が立て込んだりして予定が立たなくて、今でもそれは叶っておらず、最終的にお互いの予定が合うとき、俺が彼女のマンションに泊まりに来るという通い婚のような関係に落ち着いた。
俺自身も、彼女と一緒の時間を過ごすうちに不安な気持ちがだんだんと落ち着いてきて、別に今すぐ同棲しなくても…という風に考えるようになった。


同棲を強く望んでいた彼女も、初めこそ「いつから一緒に棲もうか?」とか、「ホントに同棲する気あるの?」とか色々尋ねてきたが、煮え切らない俺の態度に呆れたのか、今となってはもう何も言わなくなった。



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