《MUMEI》

携帯を見つめる彼女の横顔を眺めながら、俺は思い付いたままに口を開いた。

「明日は休みだったよね?」

前以て聞いた彼女のスケジュールを頭の中に浮かべながら尋ねると、彼女は、「うん」と、こちらを見ないで頷いた。

「明日が休みで明後日が遅番。その次が早番で、次はまたお休み」

無愛想につらつらと答える彼女に対して、そのスケジュールをきちんと把握しきれていなかった俺は、そ、そっか…とやっとのことで答えた。


彼女は有名百貨店で、販売の仕事をしていた。勤務先は都内で電車で片道1時間半もかけて通っていた。
シフト勤務のため平日公休が当たり前で、週末はもっぱら仕事だったので、俺とは休みが全く以て合うことがない。

いつからか彼女はシフトが出来たら、自分の公休日を俺に知らせてくれるようになり、俺は彼女に会える日と会えない日を教えるという、そういった『暗黙の協定』みたいなものが、俺達の間に自然と成り立っていた。

けれど記憶力の悪い俺は、彼女のシフトをいつも覚えきれない。メモを取ったり、携帯のスケジュール表に入力したりと、一応の努力はしてみるものの、一向に改善することは無かった。

それでも彼女は、適当な俺のことを嫌がることも責めることもなく、今のように自分のシフトをただ淡々と教えてくれるのだった。

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