《MUMEI》

不意に沈黙が訪れた。彼女は携帯のキーを忙しなく打ち、俺は俺で彼女のシフトに対し特にコメントもなく、彼女が見ていたDVDにも興味が湧かなかったので、持っていたビールを一口だけ含むと、壁にかけられたシンプルなカレンダーを何の気なしに見上げた。

そして、あれ?と間抜けな声をあげる。

「休みって、土曜日?」

俺の質問が部屋の中に響いたのと同時くらいに、彼女は携帯をテーブルに置いて顔をこちらへ向けた。意味がわからないのか、眉間にキュッとシワを寄せる。

「だから明日が休みだってば」

「違うって、その次!休み、遅番、早番、休み、なんだろ?金曜日が早番で、土曜日が休みじゃん」

俺はカレンダーを指した。彼女が教えてくれたシフトと照らし合わせると、次の休みは土曜日に間違いなかった。
俺の弾んだ声とは反対に、彼女は「あぁ…そうだね」と興味無さそうにぼやく。そんな彼女はさておき、俺は自分のスケジュールを必死に思い起こし始めた。


鳶職をしている俺は、基本的に日曜だけが休みで、その他は月曜から土曜まで全部仕事で埋まってしまう。けれど、休日返上で頑張れば、他の曜日に休みを取ることも出来るのだった。完全な肉体労働だから体力面ではかなりシビアだが、そういう所はわりと融通のきく仕事なのだ。だから18歳の頃から今日まで続けられたのかもしれない。

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