《MUMEI》

確か、今度の土日は仲間とキャンプに出掛ける予定が入っていた筈。
気になった俺は、すぐに自分の携帯を取り出してスケジュールの確認をした。案の定、キャンプの約束をしていた。それを彼女に報告しなければならない。土曜日は予定が入っている、だから夜会えない、と。それが俺達の『協定』だから。


携帯をしまいながら、俺は様子を伺うように、彼女の顔をチラリと盗み見た。彼女はもう俺に興味が無いのか、またテレビをじっと見つめたまま動かなかった。彼女の長く繊細な睫毛に、つい見とれていた。

しばらくそうしていたのだが、俺の視線に気付かないのか、それとも敢えて無視しているのか。彼女がこちらを振り向く気配が無いので、俺は諦めて彼女を真似してテレビに視線を流した。主人公達が夜のグラブでビールを片手に、古いピンボール台で遊んでいるシーンが映っていた。
彼らは代わる代わるゲームをしているが、意識はお互いの元恋人に対する悪口に向かっているようで、中々良いスコアが出ない。ゲームに負けた時の女優が悔しがる表情が、少し可愛かった。

ピンボール台に向かいながら、男が女に、『別れで一番辛いのは何だと思う?』と笑いながら問いかける。


『相手を思う心が足りなかったと悔やむこと。でも相手は自分を思ってなどいないんだ。別れを悲しむどころか、"これでサッパリした"と思ってる』


男の言葉を女は黙って聞き入れ、ビールを一口飲んだ。

俺は男の言葉の意味が何となく分かるような気がしたが、それよりもこのストーリーが退屈過ぎてあまり共感できなかった。

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