《MUMEI》

不意に、テレビから男女のしんみりとした話し声が聞こえてきた。画面の中で、二人は今度は街中の路地裏に入り込み、お互いの考えていることをたどたどしく伝え合っていた。

女は、男に振り回されない自立した強い女になることを望んでいたと呟き、
それに対して男は、よき夫・よき父親になることを理想としているが、そんな人生がバカらしく思える時があると語る。

女は問いかける。

『人を愛し愛されることは何よりも大切よ。人は生きる上で"もっと愛して"と願っているんじゃない?』

男は答える。

『感情的な拘束や愛が怖いわけじゃない。人を愛する自信もある。でも、本当は心の何処かで何かを成し遂げて死にたいと思ってる』

彼らが言わんとしていることが、よく分からず、俺は大きな欠伸をした。この映画は最初から表現が哲学的過ぎて、いまいち感情移入しづらいのだ。

DVDに飽きた俺は、ふとキャビネットの上に飾られた写真立てに気づいた。そこには、彼女が昔飼っていたという大型犬の写真と、彼女の両親の仲睦まじい写真、それから美しい黄金色の銀杏並木の遊歩道の写真が並べられている。その並木道の写真は、俺が撮ったものだった。



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