《MUMEI》

その並木道は、二人で一緒に初めて遠出した場所だった。遠出と言っても、そこは俺達が住んでいる街から車で1時間半程離れた、山間にある大きな公園だったが。

彼女の家に泊まった翌日の朝。その日は珍しくお互いが休みだったので、出掛けようと俺から誘った。ちょうど紅葉が見頃だったし、付き合い始めて4ヶ月になるというのに、まだどこにも彼女を連れて出掛けていなかった負い目からそう提案した。

最初、彼女は突然の申し出を面倒臭がっていたが、俺が必死に説得する内にやがて根負けしたのか渋々出掛ける準備を始めた。「適当に支度する」と言いながら、結局、30分も待たされた。

いつもより化粧っ気のない彼女を乗せて車を走らせる。車内にはあまり会話がなかった。起き抜けの彼女はいつもどこか不機嫌で、この時も例外ではなかった。無表情な彼女の顔が車の窓ガラスに映っているのが見えた。

目的の公園に着くと、俺は車に置きっぱなしだったデジカメを持って歩き始めた。彼女はその後をゆっくりついてきた。歩きながら当たり障りのない話を振ると、彼女はようやく笑顔を見せた。スッピンに近い彼女の表情は、いつもより魅力的に思えた。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫