《MUMEI》

その日は快晴だったが風が強く、木々を彩る金色の葉が、青空に舞い上がっていた。

俺は立ち止まっては、美しい並木道にカメラを向け何度かシャッターを切り、彼女は公園に広がる景色と、そこに訪れている人々をぼんやり眺めていた。途中、一度だけ彼女の写真を撮ろうとしたらこっぴどく叱られた。きちんと化粧をしていない顔を撮られるのがイヤだと喚いていた。

公園にいたのは正味40分程だった。「寒いからもう帰ろう」と彼女が言ったので、俺は彼女と一緒に車に乗り込み、途中見つけた蕎麦屋に寄ってから彼女をマンションまで送り、帰宅した。


後々、彼女にその日の写真をあげると、すぐにフォトフレームを用意して部屋に飾ってくれた。『二人の初めての想い出だから』と囁き、はにかんだ彼女はとても愛らしくて、思わず抱き締めた。何という名前かわからないけれど、柔らかい香水の匂いがした。


銀杏並木の写真を眺めながら、思えばあの日から2ヶ月も過ぎていることに気がついた。キレイだと感じたあの景色も、今となっては写真を見なければ思い出すこともない。



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