《MUMEI》

時間から取り残された写真達から目を逸らすと、今度はリビングの向こう側の寝室にあるベッドが見えた。折り畳み式のパイプベッドはシングルサイズで、彼女と二人で寝るには少し狭かった。寝相の悪い俺はいつも掛け布団を占領してしまい、その度に朝になると彼女はクシャミをしたり、鼻水をすすったりしていた。

今日より少し前に、どうせ一緒に棲むんだから、二人用の大きなベッドを買いに行こうか、と彼女に言ったことがある。以前、同棲を望んでいたから、きっと喜んでくれるものと思ったのだが、予想に反して彼女は微妙な表情を浮かべた。

「別に今のままでも良いじゃない?寝られないワケじゃないんだから」

「だって窮屈だろ?俺が布団取っちゃうから、お前風邪引いちゃうしさ」

「でも部屋も狭いし、お金もかかるし…この先どうなるか分からないしね」

ボソボソとそう返してきた彼女の言葉に、俺は納得した。確かに部屋は狭いので大きなベッドを置いたら、息苦しくなりそうだし、何よりその出費は痛い。ベッドもサイズが大きくなれば、それだけ金額もかかる。余計な金は遣わず、必要になる時のために取っておいた方がいい。それが彼女の考えなのだと解釈した。


結局、今も狭いベッドで一緒に寝ている。相変わらず俺は布団を占領し、彼女は鼻をグズグズしていた。

それでも彼女は、それについて今まで一度も文句を口にしたことは無い。



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