《MUMEI》

彼女は一心にテレビを見つめていた。映画はようやく佳境に入り、主役の俳優達は船上のレストランで、小さなテーブル越しに向かい合っていた。二人はお互いの目を見つめ合い、刹那的な会話を繰り広げている。


『人はいつか死ぬ。そうなんだ、物事には終わりがある。だから時や瞬間が貴重なんだと思わないか?』

『ええ、まるで今夜の私たちのよう。朝が来たらもう二度と会えないもの』


二人は黙り込む。日が登れば男はアメリカへ、女はパリへそれぞれの故郷へと旅立つ、一夜だけの儚い絆。二人で一緒にいられるのは僅かな時間だけ。

刻々と迫る別れの時に怯えながら、いよいよお互いの胸の内をさらけ出す。


『なぜ皆、永遠の関係を求めるのかな?』

『そうね、バカみたい』


テレビの画面に流れては消える字幕テロップが、やたら鮮明に瞼の裏へ次々と焼き付いていく。


視線を外して、彼女の部屋を見回した。もう見慣れたその部屋の中の本棚に目が留まる。

彼女が買い集めたであろう、たくさんのファッション雑誌がきちんと並べられている、その中に紛れていたもの。それは賃貸情報紙のようだった。都内エリアの物件が掲載されているその情報紙は、本棚の中で今、異様な存在感を放ち、そこに並んでいた。

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