《MUMEI》

テレビの中の男女は手を取り合い、見つめ合って語り合う。


『僕たちのたった一度の夜を祝して…残された時間のために』

『何だか悲しいわ…そう思わない?私たちを待っているのは、つらいサヨナラだけ』

『今言えば、明日はつらくない』

『今?』

『…サヨナラ』


そうしてお互いに『サヨナラ』を言い合う二人。何度も何度も、同じ言葉が飛び交い、それはいつの間にか俺の頭の中に侵食してきた。


『サヨナラ』


心の中で繰り返す。実感がない。俺はまた彼女を見た。予想通り彼女はテレビを見つめたまま、こちらを見ていなかった。

この時になって、ようやく気がついた。なぜ、彼女が俺と一緒にこの映画を見たがっていたのか。このストーリーの主人公達は、口数の少なすぎる俺達の代弁者なのだ。画面の中の二人は、お互いに心を見せない俺達の代わりに、二人のために『サヨナラ』を切り出しているのだ。

物語の中の、男の台詞を思い出す。



『なぜ皆、永遠の関係を求めるのかな?』



―――俺は、

彼女と出逢った時、俺は、どう思っていたのだろう。この出逢いが永遠に続くと堅く信じていたのだろうか。わからないけど、『違う』と言えば嘘になる気がする。何も語らなくても、彼女はいつだって俺のことをわかってくれていると思っていた。俺の嫌な面もだらしない面も丸ごと全て、受け入れてくれているのだと甘えていた。

果たして、それは不遜だったのか。知らず知らずの内に、俺は彼女に様々なことを期待しすぎていたというのだろうか。女が男に笑って答えたように、それこそ『バカみたい』に。



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