《MUMEI》

いつの間にか時は過ぎ、テレビには真っ黒なエンドロールが流れていた。男女の会話が途切れた部屋は、凍てついた沈黙に満ちていた。

その時、隣の彼女が不意に顔をあげた。その虚ろな視線は俺の姿を通り越して、リビングの窓の方へ向けられていた。そのままの格好で「寒くなってきた」と彼女は呟く。俺は、そうだな、と答えた。


「…もうすぐ、年末なんだね」


頼りない彼女の呟きに、俺はまた、そうだな、と繰り返した。


彼女と出会ってから今日でちょうど半年だった。長くて短い1年という歳月の半分を、彼女と共に過ごした。その有り余る時間の中で、俺達はどのくらいの言葉を交わしたのだろう。どのくらいお互いを理解することが出来たのだろう。少なくとも、今見た映画の中の二人よりも、解り合うことは出来なかったと思う。お互いをさらけ出す最も大切な『言葉』が、圧倒的に足りなすぎたのだ、と。


けれど、その『言葉』が、一体何なのか。俺にはわからない。何を口にしても、取り戻せない気がした。


考えても無駄なことなのに、彼女のキレイな顔立ちを見つめながら、俺は黙り込み、ずっとそんなことを考えていた。



FIN.

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