《MUMEI》

――…ガラッ



「!」「?」



気まずい静寂が、生物準備室の扉が突然開く音でかき消される。





「ん?なんだ明智じゃんか。どうした?こんな所で?」


「や、安田先生…」





1年生の生物教師、つまり雅俊の生物の授業を教える安田が足取り軽く入ってくる。


安田は持ってきた資料を自分の机に置くと、机の上に置きっぱなしになっていたコップを持ってポットの所まで移動する。




その様子をなんとなく目で追っていたら、振り向いた安田ともろに目が合った。



「明智が準備室来るの初めてじゃないっけ?2年の選択も生物取らないし、なんでいるの?」


「あ、えっと…」




問われて困る。

まさかスレシルの事を言うわけにもいかないし。授業の質問だったら安田に行くべきで、山男といた説明にはならない。



ここへ呼び出した張本人の山男も理由を探しているような顔をしている。兄貴が山男と仲が良いからその縁で…って言うのは、理由になるだろうか…







ふと、田中君との会話を思い出す。



「あ、その、物理選択にしちゃったんですけど、生物も捨てがたくて…山田先生、うちの兄貴と同級生で、その、4月から生物見てもらうんです。その話をしに来てました!」




ここまで一気に口にして、おそるおそる山男の方を見る。


山男は少し驚いたような顔をしていたが、そうなんですよー。とか適当に安田に向かって言葉を発している。





「ふーん。俺も一昨年この学校に来たばっかりだから、山田クンがここの卒業生だって知らなかったな。しかも明智の兄さんと一緒だったんだ?」

「えぇ。当時の先生達も結構残ってますけど、あんまりそういう話はしませんからね。」

「丸さんには結構色々話聞いてるんだけどな。ほら、丸さんここの卒業生の教師陣の中では一番の古株じゃん。」

「あぁ、丸山先生には僕も2年生の時、お世話になりました。安田先生、丸山先生と本当仲良いですよね。」

「はは、放課後なんかも、部活見るついでに体育館の教務室に入り浸っているから。ここにいる時間より長いかも。」





2人がわいわいと話始めたのを横目に見つつ、
なんとか誤魔化せたような、誤魔化せていないような、
雅俊は自分の首を絞めるような発言をしてしまった事に軽く自己嫌悪に陥っていると、部屋の外からバタバタという足音と女子生徒の叫び声が聞こえてきた。

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