《MUMEI》
暗闇の中で
ユウゴとユキナは無言で振り返った。
また、何か物が落ちたのかと思ったのだが、どうやら違うらしい。
「誰か、いる?」
ユキナの声を背中に聞きながら、ユウゴは手に持った金づちを静かに置き、姿勢を低くして扉に近づいた。
ガサガサと何か探る音、そして息を吐く音が聞こえる。
明らかに人の気配だ。
ユウゴは割れた窓から、そっと広場を覗いた。
誰もいない。
よく耳を澄ませてみると、音はホームの方から聞こえてくるようだ。
この位置からは見ることができない。
「ね、誰かいた?」
「しっ!」
すかさずユウゴは右手の人差し指を口にあてた。
そして、その指をホーム側の扉に向ける。
移動するという合図だ。
二人は同時に頷き、姿勢を低くしたまま、音をたてないように移動した。
「俺は、どうしたら…」
男の声が聞こえる。
ホームは完全に電気系統が壊されているようで真っ暗だ。
何も見えない。
その暗闇の中で、小さな丸い光がフワフワと動いている。
ペンライトのようだ。
「誰か、助けてくれ」
そう言う男の声はひどく弱々しい。
ユウゴとユキナは顔を見合わせた。
状況がわからない限り、ノコノコ出ていくのは危険だ。
息を殺し、じっと様子を窺う。
男はもう一度、深く息を吐き、ガサガサと何かを探し始めた。
「何か、何かないのか!俺は死にたくないのに!」
ガツンと、音が響いた。
男が何かにぶつかったようだ。
「……まずい。やばいぞ、来る!!」
突然、慌てた様子で男が言う。
激しく光が揺れた。
「逃げなきゃ、逃げなきゃ……」
光は改札に近づいていく。
しかし、なぜかそのスピードはひどく遅い。
「ユウゴ?」
「しっ!黙れ」
遠くの方からバタバタと数人の足音が聞こえることに、ユウゴは気付いていた。
間違いなく男はその足音から逃げているのだ。
ここで、自分から危険に飛び込むのは御免だ。
ユキナにもそれがわかったのか、口を押さえて体を小さく丸めた。
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