《MUMEI》 「俺は何ともないんだが?」 その影響を全く受けていないらしいエイジ 至って普通の様子にアリスは溜息をつきながら 「……あなた、馬鹿だからね」 僅かに笑う声を洩らす 馬鹿は風邪を引かないとでも言いたいのか 何度も笑う声を上げていた 何となくだが釈然としないものを感じ、だが今は言い合っている場合・状況ではない エイジは早々に屋上を辞すと、手近な空き病室へ 「……勝手に使ったりしたら、怒られるよ」 珍しく常識を披露するアリス だがエイジは気に掛ける様子もなく 内線にてヒトを呼んでいた 「おかしいわね。この部屋に患者さんなんていなかった筈……」 「邪魔してるぞ」 現れた看護師へと軽く挨拶を交わせば 暫く呆然とエイジを眺め見ていた看護師が、突然に大声を上げ驚いていた 「エ、エイジ先生!?一体どうなさったんですか!?」 どうやら顔見知りなのか親しげに言葉を交わし、そして 「連れが体調崩してな。申し訳ないが暫く部屋貸してもらえるか?」 代金は支払うからとの旨を伝えてやれば 「先生からお金なんて受け取れません。此処の事は自分が手配しときますから。自由に使ってやってください」 快く承諾してくれ、エイジは取り敢えず安堵に胸を撫で下ろす 深々頭を下げ、その看護師が部屋を辞したのを確認すると 「って訳だ。暫く大人しくしとけ」 アリスをベッドへと横たえてやった まるで子供に言い聞かせてやる様に額を撫でてやれば 「……あなた、先生って、どういう事なの?」 院内で随分と顔が利くけれど、との指摘に エイジは瞬間躊躇った様に声を殺すが、すぐに表情の強張りを説いてやりながら 「……俺が昔此処で医者やってたって話、してなかったか?」 していなかったと自分でも解る事を態と問うてやった 「……聞いちゃいけない事だった?」 「なんで?」 「……あなたの表情、曇った、から」 エイジの頬へと手を触れさせながら 相も変わらずの無表情でアリスは顔を覗かせてくる 他人に興味などなさげにみえ、その実見るときは見ているのだ、と 意外なソレにエイジは肩を揺らした 「……別にそんなんじゃねぇが、テメェは休むのが先だ」 話しはまた聞かせてやるから、と 薄すぎる布団をかぶせてやり、寝かしつけてやる様に髪を柔らかく梳いてやる まるで子供扱いに、アリスの頬が不機嫌に膨れた だが身体が辛いのも確かで アリスは仕方なくエイジにされるがままだ 暫くして漸く眠けがアリス襲い、その瞼が重たげに堕ちて行く 完全に寝入ってしまう寸前 突然に鐘の音が響き始め、アリスの眼がその音に見開いた 「……鐘、が聞こえる。嫌だ。頭、痛い……!」 怯える様に身を起こすと、頭を抱え蹲ってしまう 「……やっぱり、この音は嫌い。聞きたく、ない――!」 すっかり動揺し始めてしまい 更には暴れ始めてしまったアリスをベッドの上へと押さえつけ 両の手をアリスの頭上に一括りに拘束してやった だが一向に落ち着く様子はなく その騒動を聞きつけた看護師が慌てた様子でまた顔を出す 「先生、どうかしたんですか?」 「鎮静剤持ってきてくれ」 「え?」 「早くしろ!」 矢継ぎ早に言われ、瞬間解らなかった様だったがすぐに踵を返し すぐにそれらが乗ったワゴンを引いて戻ってきた 様々な薬品が並ぶその中から目的のモノを見つけ ソレを注射器の中へ 打ってやって暫く後 アリスの全身から力が抜けて行った その身体を受け止め、またベッドへと寝かせてやると その場を取り敢えず看護師に任せエイジは外へ 感の音が聞こえるのは屋上から其処へと足早に向かった 「……精が出るな」 到着した其処でまず目に入ったのは 何故其処に居るのか分からない、探している筈のウサギの後姿 鐘を鳴らしていたのはどうやらこのウサギの様で エイジの声に、ピタリとそれを止めていた その音がやむと同時、それまで感じていた重苦しい空気は消えて失せ 身体がフッと軽くなる この街の病気の蔓延も、アリスの突然の体調不良も 全てこれが原因なのだという結論にエイジは自身の内で至り ソレを奪い取ってやろうと下を蹴りつけ脚を回した それを察し、そのウサギは逃れようと右往左往する 丸々とした見た目に相反し、素早いその動きに 前へ |次へ |
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