《MUMEI》 今度は四肢から、突然に自由が失せていた 首だけでなく両の手足まで 何故こんな風に拘束などされなければならないのか その理由は見出せず、取り敢えずは逃れようと広川は暴れ始める 「離せ、離せよ!」 暴れれば暴れる程に、その糸は四肢に食い込み 皮膚を裂き、朱の糸へ更に朱の水滴を滴らせた 「……それ位にしておけ。槐」 痛みに抵抗する気力も失せてしまった広川 いっそ意識など飛ばしてしまった方が楽になれる、と眼を閉じた その直後 全身の締め付けが突然に緩んだ 「……な、に?」 目の前に現れた人の影 どうやら助けてくれるのか、広川を庇う様に立つその人影へ 縋る様に手を伸ばしてみる 望み通りその手は取られ、強引に身体が引き起こされた 「……随分と勝手な事をしてくれたな。槐」 「……それはこちらの台詞だと思うのですが」 どうやら互いに知った顔なのか だがその互いの間に穏やかさなど欠片もなく 広川を間に、互いが睨みあっていた 「……これには手を出すなと大昔言っておいた筈だが?」 「それは貴方が一方的に言ってきたことでしょう?俺にはその言葉に従ってやる義務はない筈だ」 「若造が減らず口を」 「どうとでも。貴方こそそろそろ隠居生活でもなさったらどうです?」 「このわしに隠居しろとはな。どの口がほざく?」 「俺ですよ。何でしたら今すぐにでも、そうせざるを得ない状況にして差し上げましょうか?」 広川を挟み、双方が睨み合う 一体、何がどうなっているのか 解る筈のない広川は未だに混乱の最中に居た 「……この阿呆が」 状況理解が出来ないまま恐らくは余程の阿呆面を晒していたであろう広川へ 相手は溜息を深く吐くと、その身体を軽々肩の上へと抱え上げる 「また、奪うのですか?俺から、そのヒトを」 そのまま部屋を辞そうとするその人物へ 低く、怒気を孕んだ槐の声が向けられる 「……これは元々儂の所有物だ。お前に返してやる義理など最初からないわ」 ソレに嘲笑を浮かべ、その場を後にしていた 一体何所へ連れていかれてしまうのか だが相手に抱えられたままの広川は何が出来る訳でもなく 唯されるがままに身をゆだねるしかない 「……鬼首」 その最中に声が聞こえ 鬼首とういうソレが自身を指すそれだという事に暫くしてから気付き 何事か、と相手の顔を見やる 「そんなに警戒することもないだろう。別にとって食おうという訳でなしに」 「……じゃあ何の為に俺の事拉致ったんだよ?」 納得のいく説明を、と凄む広川 中々進展する事をしない会話に、相手は明らかに苛立っていいる様子で だが、何も解らないまま何かを理解しろというのも無理な話で ソレを相手も理解はしたのか、大儀だと言わんばかりに溜息をつくと、徐に広川の頬へと手を触れさせた 「……こんな小僧が鬼神とはな……」 その存在を確認するかの様に指は触れ、 くすぐったさに広川は身を竦める 感じてしまう嫌悪感を何とか堪えながら 身体を拘束する腕から逃れようともがく 「……暴れるな。落とすぞ」 鋭く睨みつけられ、広川は瞬間に息を飲んだ 今、この男の不興を買う事は得策ではない、と 心に構え、そして身を強張らせた 「……何所、連れて行く気だよ?」 何も告げぬまま歩いて行く相手へ これ位ならば答えて貰えるだろうと問う事をしてみれば 丁度同じ時にその脚が止まる 着いたソコは随分と古めかしい日本家屋 近代的な今の町並みにそぐわないその佇まいに 広川が唖然と眺め見ていると、男はその中へ 「お帰りなさい。柊さま」 入るなり、相手へとかしづく一人の少女 深々頭を下げてくるその様に、相手は僅かに肩を揺らしながら 「相変わらず行儀がいいな。弁天」 弁天と呼ぶその少女の頭を撫でていた 「……柊さま、この方は?」 広川の方へと目配せをしながら問う事をする弁天へ 相手・柊は広川を唐突に引きよせ、後ろ髪を引っ掴む 無防備に晒された喉元 動揺に息をのみこむたび其処が動き その様を、弁天は暫く眺めた後 「……もしかして、鬼首、ですか?」 首をかしげて見せながら問う事をする 「そうだが、弁天。お前は嬉しくはないのか?」 前へ |次へ |
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