《MUMEI》 信歌(しんずうた)青年が穏やかな表情で、自身の髪によく似た蒼天を見上げている。 「斎藤、何している?こんなところで」 青年の後ろから声がかかる。青年が振り向けばそこには、愛しき彼の姿。青年は、小さく頭を下げると、彼の問いかけに答える。 「空を眺めながら、昔を思い出していました」 「昔?」 「はい。土方さんに出会ったときのことを…」 左利きの武士は武士に在らず。武士としての働きも、ただの人切りとして罰せられる。それが『右差し』の宿命。自分の心は武士としてある、しかし武士とは認められない。どこにも行き場の無い青年を引き取ったのが彼だった。 ただ一言「一緒に来い」と…。 「あのとき、俺は本当に嬉しかった。土方さんの言葉には嘘偽りは感じられなかった」 青年はまたゆっくりと蒼天を見上げる。青年の正面にいる彼もつられて蒼天を見上げる。 「あのときも…」 「こんな雲一つ無い日だったな…」 「覚えていらしたんですか?」 青年は嬉しそうに微笑む。彼も静かに口角を軽くつり上げて笑う。 「お前と会った日だ、忘れるわけねぇよ」 「土方さん…」 青年は彼だけを見つめる。二人だけの時間が止まってしまったように、見つめあい、お互いを思いあう。それから、どれぐらい時が経ったのだろう。本当に時が止まってしまったのではないかと思うほど長い時間二人は見つめあい、どちらからとなく抱き締めあう。二人は互いを信じている。強い信頼で結ばれた二人。彼らの絆を断ち切れるものはこの世界にただ一つとして存在しない。 「俺から離れるな」 「貴方の言葉、信じています…」 前へ |次へ |
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