《MUMEI》

いつもなら、寮に戻ったらすぐにその日出された課題に取りかかるのだが、今日はそんな気が起きない。

平凡に、毎日をただ流すように過ごしていた雅俊には、この今日と言う1日は驚くほど長かった。

実際に、体感した時間も長かった訳だが。



夕食前のこの時間、部活動をしている生徒はまだ学校だろうが、それでも壁の薄い寮だからこそ、耳を澄ませば部屋の外からはかなりの数の気配と声が感じられる。

それらの気配は決して、今までと変わりは無い。



自分に不思議な力があったら、他人の魔力も感じ取れるようになるもんだろうと、漠然と考えていた雅俊には少し肩すかしを食らったような空虚感すらある。



もぞもぞと身体を動かし、左手を右肩に持って行く。

山男の力をチャージした時、衝撃を食らった場所は、はっきりと覚えている。

何回か腕を肩の上から回したり、脇の下から回したりして、ようやくその場所に触れる。

触れた瞬間、一瞬ビクッとしたが身体に異変は感じなかったのでそのままスレシルを撫でてみた。

今まで、こんな石が身体から出ていたなんて気付きもしなかったが、確かに皮膚とは違う感触の物体がそこには存在している。

ぐいと押し込んでみても特に痛みを感じなかったので、かさぶたの様にぽろっと取れるんじゃないかと思い、石と皮膚の間に軽くツメを立ててみる。



「!!〜〜」



電流が走ったような鋭い痛みに、全身の毛を逆立て身を縮こませた。

そういえば、山男は服に引っかけただけでもかなりの痛みだと言っていなかったか。


「よく、これに気付かないまま生活していたな。俺。。」


ため息と共に小さく独り言を呟いた雅俊は、そのまま眠りに落ちていった。

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