《MUMEI》

…坂崎先生のお嬢さ
んだろうか?

眺めていると、家政婦さんが、紅茶の御代わりを 持って来た。

「あの方は、先生のお嬢さんでしょうか?」
家政婦さんは、笑って
「お若いですけど、旦那様の 奥様なのですよ。」と言った。

…奥さん?
ああ、そう言えば 坂崎氏は、師と仰ぐ 巨匠の 孫娘を 妻に 貰ったと、言っていたな。

親子ほど、年が離れた 若い妻だと…。

「奥様は、とてもお優しい方で、私達にも、 気を使って下さって。旦那様が、気難しい方ですのに、よく尽くして いらっしゃいます。」

「お体が、あまり丈夫で ありませんので、滅多に外に お出になりませんが、調子の良い時は、ああして 庭に 出ていらしてます。」
「そうだわ、宜しかったら、お庭に お出になりませんか?奥様のお話相手に、なって差上げて下さいませ。」

そう言って、家政婦さんは、庭に続く扉を開いた。

僕は、促されるまま庭に、足を踏み入れた。

「どなたでしょう?」僕の方へ、視線を移し君は、静かに尋ねた。

僕は、間近で君の美しさに触れ、ドキマギしながら挨拶をした。


「はじめまして、僕は、大都出版の編集者で、宇佐美(ウサミ)と申します。今日は、ご主人の坂崎 皇氏の、取材に伺いました。」

「はじめまして、妻の菜江(ナエ)と申します。それで、取材の方はもう終わられたのですか?」


「いえ…実はまだでして、執筆中との事で、勝手に待たせて頂いているのですよ。」


「まあ、約束されていたのでしょう?あの人は、いつも執筆活動に入ると、周りが見えなくなってしまって…。お忙しいのでしょう?ごめんなさいね。」


「いえ、僕はまだ駆け出しの新米ですから、仕事もそんなにないんですよ。お気になさらずに。」


「でも…少々お待ち下さいね。」
そう言って、君は家の中に入って行った。


僕は、君の去っていった方角を何時までも、眺めていた。

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