《MUMEI》

待ち合わせの時間〜喫茶「萌木」の、窓際の席で、僕は坂崎氏を待つ。


外を眺めていると、タクシーが止まる。


降りて来た人物を見て、僕は息を呑んだ。


「菜江さん?!」


彼女は、「萌木」の店内に入ってくる。


「まさか…。」
彼女は、僕を見て、驚いた。


「宇佐美様〜何故?」

「それは、こちらの台詞です。坂崎先生と、待ち合わせしたのですが…。何故、君が?」

「主人に、これを、担当編集者に渡してくるように、と頼まれました。」


手元を見ると、原稿の入った封筒を 持っている。

「ともかく、早くここを出ましょう。」


僕は 彼女に、促して喫茶店を、後にした。

…店の外で、タクシーを拾い坂崎邸を目指す。


…全く何を考えているんだ、坂崎先生は。編集者とは言え、男と二人っきりで、喫茶店に居れば、誰かの目に止まり、菜江さんが不貞を働いたと、言われるかもしれないと、言うのに…。


「あの、宇佐美様?何か、怒っていらっしゃいますの?私、何かお気に障る事を、したのでしょうか?」


菜江は、事態を良く呑み込めておらず、オロオロとしていた。


「いえ、なんでもありませんよ。」

僕は、笑顔で彼女を見詰めた。


「あら、奥様と…この前の、雑誌編集者の方?どうされましたか?」


家政婦さんが、不思議そうに、菜江さんと私を見る。


「八重さん、あの人は、何処ですか?」


「はい、旦那様は書斎に、いらっしゃいますよ。」


「そう…。」


「僕が参りましょう。家政婦さん、書斎に案内して下さい。」


「あの、でも旦那様は、書斎には誰も通すな。と常日頃申されておりまして…。」


「構いません、お願いします。」


家政婦さんは、仕方なく頷いた。


「あの…宇佐美様。」

「大丈夫ですよ、奥様、仕事の話をするだけですから。」


心配顔の彼女に、そう伝えた。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫