《MUMEI》

宇佐美は、窓辺から坂崎先生と菜江を見ていた。


やはり…菜江さんは、坂崎先生の事が…ははっ…当たり前だよな、夫婦なんだから…。


そう思いながらも、菜江を諦めきれない自分がいた。


「やあ、待たせたね。」
坂崎先生が入ってきた。


と、その後ろから菜江の姿が…。


「菜江さん?」


坂崎先生は、菜江さんを横に座らせて、話始めた。


「いや、宇佐美君、すまない。少し話があって…。」


「いえ、なんでしょう?坂崎先生。」


坂崎先生は、菜江さんの方を チラリと見て、僕に話した。


「明日の出版記念パーティーに菜江も出席させるのだが…君も知っての通り、明日は、私は諸先輩や悪友の相手で、菜江の相手が出来ない。


それで…君に菜江の相手をして貰いたいのだが…。」


「え…?」
僕と菜江さんが、同時に驚いた。


「坂崎先生、私では役不足かと思います。」


坂崎は、笑って「大丈夫だよ、君を信用しているから、頼んでいるんだ。」と言った。


「君も知っての通り、菜江は身体が丈夫じゃない。一次会が済んだら、家まで送り届けて欲しいのだ。」


「菜江、分かったね。宇佐美君の言う事を良く聞くんだよ。」


「あなた、私は子供じゃありません!」
菜江は、珍しく言葉を荒げて言った。


坂崎と菜江は、出版記念パーティーの会場に到着した。


玄関では、宇佐美が待っていた。


宇佐美は着なれない燕尾服に身を包んでいた。


「坂崎先生と奥様〜ようこそ、出版記念パーティーへ…。」


深々とお辞儀をする宇佐美。


坂崎も菜江も、珍しく洋装に身を包んでいた。


坂崎も宇佐美と同じく燕尾服で、菜江は桜色のパーティードレスを着ていた。


…菜江さん、綺麗だな、宇佐美は暫し看取れていた。


「お!皇〜来たな。」坂崎の悪友…橋元だ。


「お前が、煩いからな…仕方なく。」
坂崎は、無愛想に言った。


「たまには、息抜きせんと、老け込むぞ!若い嫁さんに嫌われ無いようにって、オレの優しさが分からんかね?」


橋元はそう言って、菜江の方を見て笑った。

菜江は、ペコリと頭を下げ、軽く会釈した。

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