《MUMEI》

坂崎邸に、着いた時は、菜江の顔色も少し赤みを取り戻していた。


「菜江さん、じゃあ…僕はこれで…」


宇佐美は、帰ろうとしたその時〜菜江が口を開いた。


「宇佐美様、少しだけ話し相手になって頂けませんか?」


宇佐美は、菜江の真剣な眼差しに〜待たせていたタクシーを一旦帰し〜
「では、少しだけお相手致します。」
そう言った。


「あの…家政婦さんは?」


「あ、八重さんは夜にはお帰り頂いているのてすよ。」


…え?じゃあ〜この邸に二人きり?不味いのでは…。


「あの…僕は、やっぱりおいとま致します。」


「宇佐美様?」


突然、席を立とうとする宇佐美に、寂しげな顔をする菜江。


「宇佐美様も…私といても、楽しくないのですね…坂崎も…そうみたいで…私どうして良いか…」


そう言って、大粒の涙をその美しい瞳から 流した。


「菜江さん…」
思わず、抱き締める 、宇佐美…


「僕は…僕は、あなたの事が…好きなんです。」


「あの…私は…坂崎の妻で…」


「でも…あなたは寂しい想いをされているでしょう?僕なら、あなたに そんな想いはさせない…」


菜江を抱き締める手に力を込める。


宇佐美の手が、菜江の頬に触れ、優しく涙を拭い、唇へと触れた。


「菜江さん…」


宇佐美の唇が、菜江の唇に触れた。


菜江も戸惑いながらも、静かに目を閉じた。


宇佐美は、静かに唇を離し…菜江の顔を見つめた。


「菜江さん…、すみません、僕は…」


菜江は、首を小さく横に振った。


「謝るのは、私の方です。ごめんなさい。」


「菜江さんを好きな気持ちは、本当です。でも菜江さんを、困らせるつもりは ありません。今夜の事は、二人だけの秘密にして下さい。」


「宇佐美様…私は…」菜江は〜坂崎に構ってもらえない寂しさを、宇佐美の気持ちを利用して、埋めようとしたのだ。


「私は…ズルい女です…宇佐美様の気持ちを利用しました。」


菜江は、泣き崩れた。


「菜江さん?」
宇佐美は、訳が分からずにいた。


「あなたを愛せるかも…と思っていました。坂崎の事を忘れられると…でも…」


「もう、分かりました。これ以上、それを僕に聞かせるのは、酷と言うものです。わかってましたよ、あなたが彼しか見てない事を。」


…ただ、分からないのは坂崎先生の行動なんだ、やはり 何かあるのだろうか?

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