《MUMEI》

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僕と菜江さんが、坂崎の奇妙な行動の訳を知るのは〜それから数日後の事である。


その日も、朝早くから、坂崎は友人の見舞いに病院に出掛けていた。


「またなの?それにどなたが ご病気なのかしら?」


「なんでも、古い知人で〜佐伯様とおっしゃいましたよ。」
八重が答えた。


「そう…佐伯様?」


その時〜来訪者を告げる、ベルの音が響いた。


八重が、玄関へと走った。


「どなたでしょう?」


「私は、坂崎の古くからの知人で〜佐伯と言います。皇はご在宅ですか?」


「まあ!佐伯様?あの〜ご病気は?退院されたのですか?」
八重は驚きながら言った。


「は?私はこのかた、医者要らずの健康体ですが(笑)〜どなたかとお間違えでは?」


傍にいた、菜江も…びっくりして、言葉を失った。


…では、坂崎は どこで何をしているの?


嘘をついてまで、出掛ける用事って…。


その日の夜遅くに、坂崎が帰宅した。


菜江は、玄関で出迎えた。


「お帰りなさい、あなた。」


「まだ、起きていたのか?」
坂崎は、驚いた顔をした。


「今日は、どちらに?」


「八重に聞かなかったのか?佐伯の見舞いだ。その後、仲間同士で討論会などで、盛り上がったのだ。遅くなったな、すまない。」


「そう…佐伯様の…お見舞い…。」


…嘘…どうして?…私に何も…言ってくれないのね…あなたにとって、私は…何なの?


「あなた…」
話かけた菜江の言葉を遮って、坂崎が言った。


「すまない、明日も早くから出掛ける。今日は、執筆してから、休む。」
坂崎はそう言うと…書斎へ向かった。

書斎の鍵を締め〜坂崎は、崩れ落ちるようにドアに凭れて座った。


…鈍い痛みが、身体を襲う…


ポケットから薬を取りだし、口に入れる。


……ふうっ…つっ…。暫くすると、痛みが和らぐ。


そろそろ…長く効かなくなってきたな…


早く仕上げなければ…もう少しだ…。


坂崎は、机に向かい、引き出しの奥から原稿を取り出した。


その日、原稿は仕上がった。坂崎は、満足そうに、筆を置いた。

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