《MUMEI》

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次の朝…早くに、坂崎は出掛けた。


出掛ける前に…菜江の寝室に立ち寄り、眠る菜江を見つめた。


…菜江、幸せに…。
小さく呟く。


眠る菜江は、気付かない。


坂崎は、起こさぬように…静かにドアを閉めた。


八重に宇佐美くんが、来たら 書斎の原稿を渡すように伝え、坂崎は、出て行った。


「旦那様?今日はどちらへ?」


八重の問いには、答えなかった。


坂崎が出掛けてから、暫く後…宇佐美がやってきた。


「早くにすみません、坂崎先生は、いらっしゃいますか?」


「はい、旦那様はお出掛けしておりますが、宇佐美様がいらしたら、書斎の原稿を渡すよう、言付かっております。」


「そうですか、原稿を…呼ばれた訳は、それですね。」


「宇佐美様?」
菜江が、現れた。


「こんな早くに?どうされたんですか?」


宇佐美は、菜江に詳細を説明した。


「では、書斎へ…」


カチャリ…
坂崎の机に、原稿の束と…菜江宛の封筒。


「!?」


菜江は、慌てて封を切る。


中には…離婚届と便箋。


「何?これ…」


それは、菜江と坂崎の離婚届…何故?


狼狽えながら、手紙を読む菜江。


宇佐美は、原稿に目を落として読み始めた。


…菜江へ


菜江…すまない、君を幸せにしてくれ。と君のお祖父様〜我が師より頼まれていたのに…


約束が守れそうにない…。私では、君を微笑ませる事が出来ない。


私では、君を悲しませるだけだ。


そんな、私に君は 良く尽くしてくれた。


だから…菜江、もう私に縛られなくていいんだ。君は、自由になりなさい。


君の気持ちが、宇佐美くんに向いているのは、分かってるよ。


宇佐美くんなら、君を悲しませる事もないだろう。彼は、良い青年だ。


幸せにおなり…菜江。


お祖父様には、私から報告しておくから…。


「あ…どうして?」
菜江は、泣き崩れた。

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