《MUMEI》

 誰かと何か話す事をする
何ら変哲のない筈のその行為が
だが人が生き続けて行くために必要なソレだと、不意に思った
交わす言葉を失えば、後に残るのは孤独
ソレに耐えられる程、ヒトは決して強くはない
「……どうでもいいや」
だが他人との関わりが煩わしいと感じる様になり
その結果自分自身此処にあるという実感すら希薄になっている
その事に気付いた時には既に遅くて
他人を拒む様にすらなってしまっていた
それでも、望んでいた筈の孤独を時折酷く寂しいと思ってしまうのは
自分自身が本当はソレを望んではいなかったからだ
だからいざそうなってしまった時、その孤独に耐えられない
「……誰か、助けてくれないかな」
街の雑踏の中、蚊の鳴く様な声で呟いてみた処で誰一人として立ち止まってなどくれない
大勢の中に群れていても
一人である事の不安に押しつぶされそうになる
どうして、どうして、どうして
耐えきれず、聞こえる音全てを遮るため両の手で耳を覆い
そして堪らずその場に座り込んでしまっていた
「お嬢ちゃん、どしたの?」
どれだけそうしていたのか
不意に目の前に影が射し、顔を上げてみれば
其処に、一人の男が立っていた
「……アンタ、誰?」
突然のソレに怪訝な表情をつい浮かべ
だが相手は気に掛ける様子もなく手を差し出してくる
それを取れとでも言いたいのか
暫く呆然とその平を見ていると
突然、身体がふわり浮いた
「な、何!?」
「そんな時化た面してちゃ可愛い顔が台無しよ。オジさんと少し遊ぼうか」
「ちょっ……、いきなり何!?」
突然の事に当然暴れ始めれば
その相手は、だが気に掛ける事もせず、まるで子供の様に笑ってみせる
「ちょっ……、何所行く気よ!?」
「オジさんとデート。大丈夫よ、オジさんを信用しなさいな」
「はぁ!?信用なんて出来るわけないでしょ!あんた馬鹿!?」
「そうよ。オジさんてば馬鹿なの。だから、ね」
付きあってくれるか、と片眼を閉じて笑ってくる相手へ
当然、怪訝な表情を隠しきれない
だが解放される気配はなく、大声で喚いてやろうと肺に空気を大量に吸い込んだ
そのすぐ後に
抱え上げられていた身体が降ろされた
「ほい、着いた」
何も告げられず連れてこられた其処は
何の変哲もない小さな公園
住宅地から随分と離れているためか、遊ぶ子供の姿もなく
こんな場所に一体何があるというのか
怪訝な顔で相手の方を見やれば
だが相手はソレを機に欠ける様子もなく
其処にあるブランコへと腰を降ろしていた
「なーんか、悩んでる?」
「え?」
「何か、すごい暗い顔してる。今にもどっかから飛び降りそうな感じ」
「……そ、そんな事――」
「しないって、言い切れる?」
笑う顔はそのままに、だが真剣な声色が向けられて
すぐに頷いて返す事が出来なかったのは、僅かばかり迷いがあったからだ
「オジさんで良かったら話聞くけど?話すだけでも結構楽になるもんよ」
「べ、別に、そんな深刻なものじゃ――」
「そう?……じゃあ、お嬢ちゃんは何が好き?」
「え?」
脈絡のなさすぎる質問が唐突に
余りに九過ぎて答えられずにいると、相手はふっと表情を柔らかにする
「……今は、まだ答えられない?」
何にを返せばいいのかが分からず口籠っていると
だが相手は無理矢理に言の葉を引き出すでなく唯待つ事をする
「別に、今答える必要はないよ。オジさん、別に答えが欲し訳じゃないから」
「……じゃ、何なのよ?」
問いに対する答えを求めるでもなく、ならば一体何を待つというのか
ソレを問い質してやろうと口を開き掛けた、次の瞬間
唐突にその腕が引かれた
「ほい、此処座って」
座らされたのは、ブランコ
一体何なのか、怪訝な表情で後ろに立つ相手へ振りかえってみれば
「思いっきり漕げば、すっきりするから」
やってみて、と片眼を閉じて笑って見せた
強引なソレに、何か文句を言って返すより先に突然背を押され
その勢いでブランコが振り子運動を始めてしまった
「ちょっ……、高すぎだよ!止めて〜!」
「何で?これ位やんないと楽しくないでしょ?」
「それはアンタの基準!兎に角降ろして〜!」
余りの恐がり様に相手は苦笑を浮かべながら

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