《MUMEI》

誰か入ってくるのかと思い、少し待ってみたが入ってくる様子は無い。

そのまま開いた壁から顔を出すと、やはり誰もおらず、左側に廊下が続いていた。

「自動ドアか?」

なにげに独り言を呟きながら廊下に滑り出る。

曲線を描いているらしい廊下は数メートル先すら、うかがい知ることができない。

少しだけ躊躇いがあったが、まぁ大丈夫だろう。という根拠のない自信を胸に雅俊は歩き出す。





思った以上に長い廊下を歩いていくと、再びドアの様な線を壁に見つける。

その前で立ち止まると、やはり勝手に線の中の壁が消え、雅俊は目的の相手がいると予想し、その中へと踏み入れる。






「あぁ、目が覚めたか。」

その部屋の中には、雅俊が予想した通りサプリがいた。

「すごいな、書斎…というより図書館みたいだ。」

サプリがいたその部屋は、床から天井まで入ってきたドア部分と少し大きめの窓が一つある以外は全ての壁が本棚となっていて、その天井も2階分は高さがあった。

天井の方を見上げて感心している雅俊を見て、サプリも目を細めつつ上を見る。

「あまり歩き回るのが好きではなくてな、上にばかり部屋を拡張してしまった。」

「?」

「こっちでは、建築という概念が薄いからな。建物は自在に形を変える。」

「土地が狭いからとかじゃ…ないか、ここまですげー廊下長かったし。」

「ま、ゆっくりこっちの構造でも見て回ると良い。スレシルが、家から出て行けない。という決まりも無い。
監視の目があるから、ノルフェスの奇襲も滅多にない。向こうにいるよりよっぽど安全だ。かつ、適合魔法も習得してもらわなければならないしな。」

サプリはそこまで言うと、雅俊の言葉を待たずに、手に持ったままだった本に目を落とし、雅俊に向かって出て行けと手だけで指示を出してきた。

雅俊は、指示されるがままに部屋を出ると、ドアが開いた時と同じように自然に閉じ、廊下で1人佇んでいた。

「…あれだけの話で理解できるか!」

唐突に我に返り、先ほど出てきたドアのあった場所に近づくが、今度はチラリとも開くことなく完全に雅俊を拒む。



「ちょ、えぇぇ!!???」



無駄に長いとしか思えないその廊下に雅俊の声が大きく響いていた。

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