《MUMEI》 取り合えず話を変えてやろうと額に手を当てて問うてやる その問い掛けに、アリスは瞬間虚をつかれた様な顔 そう言えば、と漸く自身の体調不良を思い出したらしいアリスに、エイジは苦笑を浮かべていた 「そういう台詞が出てくるって事は、もう大丈夫だな」 安堵の溜息を洩らしたエイジがアリスの髪を掻いて乱してやり それから徐に、エイジは先程ウサギから奪い取ったまますっかり忘れていた鐘をアリスへと手渡してやる 「……これ」 渡されたソレを、まるで確認するかの様に一度鳴らしてみせ 暫くその音色の余韻に浸る 瞼を閉じ、その音に聞き入る様はひどく儚気に見え 一体この少年は何を負うて此処にいるのか そんな事を今更に考え、引き寄せてやるためその腕を取った 「何?」 エイジの腕の中へと突然に抱き込まれ 僅かにでも驚いたのか、問う声が聞こえてくる 理由など、特には無かった 唯無意識に、本当に無意識に手が伸びただけで エイジはすぐさまその身を離す 「……僕が消えるとでも思ったの?」 まるで胸の内を見透かさした様な笑み 消えるかもしれない ソレが何故か微かな不安になり、どうしてか胸の内に燻り始める 「……だったら、僕を愛して」 「は?」 突然のソレについ聞き返せば 相も変わらず、綺麗過ぎる微笑が向けられる 「……世界が、終わるまででいいから」 愛してくれれば、それまでは絶対に消えないから、と 腕を回され、強く求められた エイジは微かに肩を揺らすと、ソレに答えて返してやるように抱き返してやり 気が済むまでそうさせておいてやろうと、暫くそのままで すぐに、穏やかな寝息が聞こえ始める 「……寝顔は、やっぱガキだな」 完璧に寝入ったのを確認し エイジは服を掴んだままにのアリスの手をやんわりと解くと アリスの寝顔をのぞき込み、額に手を触れさせ熱を計ってみる 自分より僅かばかり高い体温 やはりまだ子供なのだとエイジは僅かに肩を揺らし 起こさない様病室を後に 街の様子を改めて見て回ってみようと外へ 鐘の音が止み、その影響がなくなったのか あれ程までに閑散としていた街中に普段通りの賑わいが戻りつつあった 「……ヒトというのは、愚かだな」 その様を何気なしに眺め見ながら歩いていたエイジの背後 耳に障る声にエイジの脚が止まった そちらへと向いて直って見れば 其処に、以前出くわしたウサギの顔を持つあの人物が立っていた 明らかに其処に在る事が富士善に思えるのだが 周りはそれを気に掛ける事もしない その事を訝しめば 「……世界は、直に終わる」 嘲笑混じりに、声が寄越された その不吉な言の葉に、だがエイジは怪訝な表情をして見せる 世界は一体何の為に終わりを迎えるのか ソレを問うてみれば 「……ヒト風情が知らずともよい事だ」 当然明確な答えなど返ってくる訳もなく 相手は踵を返し人混みの中へ消え入った その跡を追おうとエイジまた踵を返せばその直後、何故か目の前が歪んで見え始めた 見慣れている筈の景色から唐突に知らないソレへ引き込まれそうになり、エイジはその脚を咄嗟に止める 深追いはするべきでない そう判断し、宿に戻ろうとまた身を翻し 帰り着けば、アリスが身支度をしていた最中だった 「……また、あいつに会った?」 表情を全く変える事をせず、問うてくるアリス エイジは黙することで応を返し 着替えも途中、上半身裸のアリスへと上着を被せてやる 「あいつ、何か言ってた?」 気に掛ったのか、問うてくるrアリスへ エイジは聞いたまま、その言葉を告げてやった 「……世界が、終わる。あいつ、そう言ってたの」 「聞き間違いだったら、良かったんだが」 「……そう、やっぱり世界が――」 平静を装い、また支度へと戻るとするアリス だが僅かばかり曇ったその表情の変化をエイジは見逃さなかった 「アリス」 背を向けたアリスの腕を掴み、その身体を腕の中へ 抱いてやればその勢いのまま、エイジはベッドへと腰を降ろす 「……何?」 エイジの膝上に座る形になってしまったアリスが僅かばかり驚き 流石に恥ずかしいのかすぐ様降りようと身を引く だがエイジはソレをよしとせず 腕をアリスの腰へと回し、身体を軽く拘束する 前へ |次へ |
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