《MUMEI》

そう言いながらもトリスタンは緊張の為なのか、しきりに服のボタンを触っていた。

「あー…でも、どういう事だ…その」
「年取りすぎってんでしょ…」

そうなのだ、俺が会った事が無いくらいだから…女性に言うのも何だが相当な年だったんじゃないかと思う。

そんな年齢の女性が、俺と同じくらいの年齢のトリスタンを産んだという事が想像出来なかった。

「私を産んで死んだんだよ…」

そう言ってトリスタンは俺の胸のボタンを一つ外したかと思うと、肌に触れるように手を合わせてきた。

「だから僕は貰われて行ったんじゃなくって…今のパパとママに引き取られたんだ…」

そう、だったのか…。

初めて顔を合わせた時、トリスタンの表情は何だか寂しそうだった。

逆光の差し込む部屋の真ん中で一人座り込み、こっちをじっと見つめている。

今までそんな子供を見た事が無かったので、その印象が強烈に頭の中に残っていた。


「…何で親父は口ごもってたんだ?」

その事を分かっていたであろうマックスは何故俺の質問に答えなかったのだろう…。

「きっとマックスの事だから詳しくは知らなかったんじゃない?あの子分からなくなるとモジモジするでしょ?」
「あの子…」

トリスタンとマックスはクザンス(従兄弟)だからそういう言い方でいいのかもしれないが、さくらが言っていた呼び方と同じだったので何だか複雑なカンジがした。

「それに私の母さんはそんなにお婆ちゃんじゃないのよ、2番目と同い年だったんだから」
「ぁ?そうなのか…」
「…なのに、母さんは放っておかれたんだから」

それだけ言うとトリスタンは外した俺のボタンを直し、いつものように両頬にキスをしてくると、前に向き直り前座席のシートに手をかけた。

「…ねぇ、送ってってよ…アンタんトコには泊まれないでしょ、今日はこの近くにホテル取ってあるからさ」
「…あぁ」

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