《MUMEI》

「俺達は安西がどんな人生を歩んでいたか知らないように安西も二郎と過ごした時間を知らなかっただろ。
二郎は苦労してる、死なせたくなったこともあるよ、それでも不格好ながらも俺達は生きてる。
感謝しながら、助け合いながら。
生きることに必死だから安西のこと気にしてられないんだ、俺達の為だと思って懺悔はもうするなよ。
恋人の腰に手なんか回して、軽く会釈するくらい堂々としやがれ。お前なら出来るよな?」

この人は格好良い、先輩に相応しい人だと改めて思い知らされた。


「心配してくれるんですね……。」

俺のことを、一生怨んでるかと思っていたのに。


「俺の二郎のかわいい後輩だからな。
昔のお前のことは気に入らないけど、今の頑張ってるお前を見ていると情が沸くよな。」

照れ臭そうに笑った。


「恥ずかしい人ですね。」


「よく言われる。」

満面の笑みで返されたら、笑い返すしかない。
ほどなくして先輩に帰ってこい着信が届き、大きく手を振り回しながら去って行った。

小さく溜息が漏れてしまう。
あの人の底無しの明るさから、木下先輩は笑顔で居られるのだろう。
俺には一生かけても、無理だったろう。




「誰……」

つぶやきながら通行人のふりをして、あゆまが通過する。


「昔の知り合い」


「木下先輩じゃないよね?」

いつの間にその言葉を覚えたんだろう。


「の……家族。」


「そうか……」

目を丸くしながらも、冷静にしている。


「お前もだよ。」


「えっ……」

さりげなく言ったつもりだったが、あゆまは聞き逃さなかった。
寄り添うようにして、あゆまは傍らを離れなかった。
あゆまには安心して、俺の全てを託せる。
小さく咳込む、風邪の為に薬を貰いに行ったが癌が見付かった。
まだ教えてないが、家族には伝えなければならない。

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