《MUMEI》

「それで?例のスレシルについて何か手がかりはあったか?」


準備室のど真ん中にある実験机の下から椅子を出しながら、既に定位置となっている山男の机から1メートル程離れた位置に座る。


「一応、毎日こっちに顔出して、休み中に残っている生徒の事見て回ったんですけど、ダメですね。結構みんな帰省しちゃってたし。」

「まぁ、春休みだったからな。」


山男も、実験机の上に雅俊のために入れたブラックコーヒーを置くと、自分の椅子に座る。


「春休み前に、先生に言われた方法、試してみてはいるんですけど、なかなか効果なくて。」

「でも雅俊は間(スペース)の能力者なんだから、俺が作るソウよりかよっぽど立派なの出すじゃないか。」

「ソウに入っても、動ける人間ってのは、確かに気配読めなくても探す方法になるとは思いますけど?そもそも、フェルから逃げてる人間が、ソウに入れられて動くと思いますか?」

「…確かに。ある程度魔法に慣れてくると、ソウに入ったかどうかなんてすぐに分かる様になるしな。」

「それに気付くまで、生徒が居るところあっちこっちでソウ出してたんですよ。俺の事、相手にばれてる可能性もあるな。と。」

「始業式は?」

「?」

「今日の始業式、新2,3年で欠席者は2人。その2人で無い限り、その中に間違いなくいただろう?ソウ出さなかったのか?」

「あ〜…なんでそう言うこと今更言うんですか?ってか先生もあの場所にいたんでしょ?ソウ出してない事くらい知ってるでしょうに。ソウ出しても意味無いって気付いてからこの方法では探してなかったんですよ。」


盛大にため息をつく雅俊を見て、山男もつられて大きなため息をつく。


「…言ったろ、2人欠席が出た。って1人はテニス部だったから、寮に連れていっていたんだ。」


だから始業式は出ていない。と言う山男の言葉を聞きながら、雅俊は実験机に背中を預けて天井を見上げた。


「後は、目で見て探すしかないのか。数年前にスレシルなって、適合魔法も完成していないんだったら、よっぽど年齢行ってる姿してるはずなんだよなぁ。」

「なんだ、その憶測。」

「サプリが言ってたんですよ。適合魔法を完成させていないって事は、時間軸がまだフェル界の方に引っ張られている可能性があるんじゃないか?って。」

「まぁ…一理あるか、高校生ってのは一番化ける時期だからな。1年でガラっと雰囲気変わるし。」

「…そうですか?」

「成長期なめんなよ?」

「うー…俺もどっか成長してんのかな?」

「自覚無いのか?」

「ぜんっぜん?」


山男は、自分や雅俊の兄である俊彦がスレシルになった時の事を思い出して、その時との違いに苦笑する。


「…あ、また雨降ってきましたね。」


雅俊が窓の外を見ながら呟くのにつられて山男も窓に目をやる。


「もう部活始まってんのにな…」


あいつらビショビショだなー、と自分が顧問を務めるテニス部の面々の事を思い出しながら窓に近づく。最近、部活中に土砂降りの通り雨が多く、今日の欠席者も部活中に身体を濡らして風邪をひいた屋外の部活に所属する2人だった。

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