《MUMEI》

「織田、出口が止められた。どっか別の出口ないか?」
急いでトランシーバーに呼びかける。
その間に警護はユウゴに気づき、銃を向けてきた。
ユウゴも銃を構えたが、まだ会場には関係のない人間が残っている。
いまさらだとは思うが、できることなら彼らを巻き込みたくはない。
だがその直後、ユウゴの後ろから銃声が数回響き、警護に向かって何か怒鳴っていた男が倒れた。
同時に警護が発砲を開始し、会場にはさらに大きく悲鳴が響く。
ユウゴは姿勢を低くし、椅子の陰に隠れながら振り返った。
いつの間にか前方にいたはずの警護数人が倒れている。
「お前がやったのか?」
ユウゴは同じように椅子の陰に隠れているケンイチに聞いた。
ケンイチはニヤリと笑って頷く。
「近い敵はさっさとやっとかないとな。意外とマヌケだよな、こいつら。爆竹鳴らしたら呆けた顔して突っ立ってんだから」
「一般人を撃つなよ」
「しょうがねえだろ。当たっちまったんだから」
二人がそう会話している間にも、警護たちは発砲してくる。
近くの椅子をできるだけ引っ張り寄せて盾を作るが、あまりもちそうにない。
「織田! 聞いてるか?」
返答のないトランシーバーにユウゴは怒鳴る。
すると「裏口に回れ」と織田の声が答えた。
「裏口? ってどっちだよ」
「ステージだ。横に裏口への通路がある」
「わかった」
ユウゴは織田に答えると、なにやら鞄の中を探っていたケンイチに目を向けた。
「この状況でなにやってんだよ! 行くぞ!」
ユウゴの声にケンイチは目も向けずに「ああ、ちょい待って」と答えた。

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