《MUMEI》
プロローグ
「じゃ…私行くから」

「あ、待ってよ!ツヅ!!」

早足で幼い頃から住んでいた家を離れる私。
それを追いかけてくるのは幼なじみのフォンだ。正式名は、フォント・ルアー・ネビスト。日本人とイギリス人とのハーフである。

「ツヅ!!..本当に日本へ行ってしまうの…?」
「…当たり前でしょう?…日本は私の故郷よ」
「…でも、ずっとこっちで暮らしてきたじゃないか…今更…」

私の今いるここはイギリス。幼い頃、日本からこっちへ引っ越してきた。ある事情を抱えて…。

「今更も何も、私は昔から学校を卒業したら、日本へ帰るつもりだった…だから卒業した今、日本へ帰国するのよ」
「そんな!!…ここも君の故郷だろう!?」
「フォン…私は、もう一度あの…私の記憶にある、あの景色を見てみたいの…そして確認したい…」
「……」
「…あの景色が一体何なのかを…」

一旦俯いていたフォンが、決心したよに顔を上げた。

「…わかったよ」
「…フォン」
「だけど…ツヅが悲しくなったり、辛くなったりしたら…その時はこっちへ帰って来てね…それだけは約束」

ちょっと不安そうな、心配そうな笑顔をうかべながら、こちらに手を差し出してきた。

「…分かった。約束」

私も手を出してフォンの手に重ねる。それが私達の約束の決まり。

「いってらっしゃい。ツヅ」
「…行ってきます」

そうして私は日本へ帰国した。

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