《MUMEI》
頼み事
二人はそれから一言も話す事なく黙ったまま、ただ時間だけが過ぎていった。
有馬達が出て行ってから、もうどれくらい時間が経っただろう。
部屋に時計は無く、あいにく携帯も持っていない為、今が何時か分からない。
そればかりか、窓もないから昼か夜かも分からない。
腕時計、しとくんだった…
何の役にも立たないブレスレットだけ着いている手首を見ながら、虚しい気持ちになった。
「さっきは…悪かった。」
ずっと黙ったままだった二人の間に、漸く会話が戻る。
「その…怒鳴ったりして…。」
「ううん…リョウが悪い訳じゃないから。謝んないで?」
加奈子は無理に笑顔を見せた。
どうせバレると分かっていても、そうでもしないとリョウの全てが壊れてしまう気がしたから。
「一つだけ…」
「ん?」
「一つだけ、頼みたい事があるんだ……。」
掠れた声で放たれた言葉。
リョウの真剣な眼差しが加奈子の心をえぐり出す。
でも…
決意を固めた彼の姿に、首を横に振る事が出来なかった。
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