《MUMEI》

西日の射す二年一組
の教室。HR終了後
学級担任の麻木圭吾
(アサギケイゴ)は生徒
に話し掛けられた。


『センセ、今日俺ン
家に来る予定だよね
ぇ?家庭訪問。』


相模原剛史(サガミハラ
ツヨシ)が栗色の柔ら
かな髪を揺らし、人
懐こい笑顔で聞いて
来た。


『あぁ、親父さんに
ちゃんと言ってるん
だろーな、お前。』


『あ、ヒデーな、言
ったよ、俺。親父、
センセーに会うの楽
しみだってさ。』


『ははっ、なんだソ
レ?』

相模原の家は父子家
庭で、父親と二人暮
らし。

一流企業の役職者の
相模原の父親は、ブ
ランドのスーツをさ
りげなく着こなすイ
ケメン。

PTAで何度か見掛
けた彼は、とても高
校生の息子がいる年
齢には見えない程若
い印象だった。

そして今、目の前に
いる息子の剛史も父
親の遺伝子をしっか
りと受け継いでいる
のだろう、校内一の
美男子である。


『親父、仕事の都合
で帰宅時間が遅くな
るけど、センセ大丈
夫?』

少しだけ眉尻を下げ
て心配そうな顔で俺
を見る剛史に、フッ
と笑い肩を竦めて見
せた。

『大丈夫だよ、家庭
訪問もお前の家で最
後だし、明日、あさ
っては休みだしな。
親父さんとじっくり
お前の素行について
話し合うさ、覚悟し
てろ!』


『え?何ソレ、セン
セ、親父に変な事言
うの無しだからな。


喚く剛史をスルーし
てざわめく教室を後
にして、俺は職員室
へと歩き出した。

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