《MUMEI》 「嫌ぁ……!」 音がひときわ大きく鳴り響き アリスは眼球が飛び出してしまいそうは程に眼を見開く もう一つの鐘を有しているのはアリス その事実を、今エイジは目の当たりにしていた 「それは生まれながらにして身の内に鐘の音を戴いた忌み子だ。本来ならば生きている事さえも許されない」 まるで狂人の様に叫び続けるアリスの様を眺め見ながら ラビは声に笑みを含ませながら、一人言に話す事を始める 「……だが、そんなコイツにも唯一出来る事があった。鐘を打ち鳴らし世界を終焉へと導くという大役がな」 「は?」 「さぁ、アリス。世界に終焉を。その餞としてあの男を殺せ」 事情が何に一つ飲み込めず、困惑するばかりのエイジへ ラビは構う事無くアリスを差し向ける 向けられる剣先 だがエイジは動じることなく、距離を詰めてきたアリスのその腕を引き 身体を強抱きしめてやった その間もやむことなく鳴り響く鐘 その音に比例し、アリスの身体はひどく痙攣し始める 「……何をしてる?早くそれを殺せ」 ラビの声と鐘の音が重なる程にアリスは身体を震わせて アリスの様子を伺って見れば、その眼には涙が浮かんでいた 「……僕に、何も壊させないでよぉ!」 喚く声と同時にエイジの身体を突き放しアリスはまた剣を構える 振り上げ、そして降ろされていくソレに だがエイジは避ける事をせず、自らの肉にその刃を受け止めていた 飛んで散った血飛沫が、アリスの全身を汚す 「……ほら、アナタも壊れる。僕が、壊す」 エイジの鮮血に塗れ、アリスは更に涙を溢れさせる 己が内で鳴り響く、全てを壊す音の色を聞きながら 目の前で傷ついた男、そして壊れて行く世界を眺め見るしか出来なかった 「無駄だ、アリス。お前は全てを壊す、その為に生まれて来たのだから」 「……テメェ、少し黙ってろ。馬ー鹿」 嘲る様なラビの声に エイジは途切れ途切れの悪態をついて返す 肩に刺さったままの刃を抜き取れば、更に大量の血が流れ 多量出血故に、目の前が霞んでいく 完璧に意識が飛んでしまう寸前二人の目の前へヒトの影が現れた 「もう、やめて下さい。ラビ」 庇う様に立ったその人影 見えるのは後姿ばかりだったが、エイジはそのヒトを知っていた 「テメェ、何しにきた?」 アリスが攫われた際、エイジへと言葉を残して行ったあの女性 一体何をしに来たのかと訝しめば どうしたのかエイジへと手を差し出してくる 「あなたが持つ鐘を、私に貸して下さい」 「は?」 唐突な申し出 つい聞き返せば、女性は薄く笑みを浮かべながらアリスの方を見やった 「……この音を、この鐘に戻します。そうすれば、全て救われる」 壊れてしまいそうなほど脆い笑みを浮かべ、エイジから鐘を奪い 女性がその鐘を数回振ってみせると ソレまでアリスから聞こえていた筈の音が、その鐘から聞こえてきた だがその音は其処にあってまるで其処にない様な感じがしてならなかった 「……ラビ、これを」 ラビと正面から対峙し、女性はあの懐中時計を差し出して向ける ソレを見るなり、ラビの表情が僅かに強張った 「それ、は……」 「あなたが捨てた時計です。貴方はこの時計が時を刻む事を止めるまで世界を管理しなければならなかった。ソレなのに何故!?」 「……もう飽いてしまっただけだ。ヒトを、飼う事に」 「ラビ――!」 更に反論しようと声を張り上げた女性 だが直後にその声は途切れ、どうしたのかその身体がピクリとも動かなくなった 大量にまた血が土を汚し、生臭いソレを漂わし始める 一体、この男は世界を終焉へと導き、そしてその先に何を見るというのか その長く、そして短い一瞬を唯傍らで見ているしか出来なかったエイジが 何も出来ないでいる歯痒さに奥歯を噛み締める 「……お前も、わしにたて付く事さえしなければもう少し長く生きられたものを……」 深々と女性の身体につき入れられた腕 ソレを嫌な水音と共に抜き取れば 支えを失ってしまった身体は崩れ落ちる様に土の上へと伏していた 「……母親の愛情など、何の役にも立たぬ。滅び逝く、この世界ではな」 事切れてしまった女性を見下し、邪魔だと脚で退ける 一部始終を眺めていたアリス その眼が、更に見開いて行った 「母子共々、哀れだな」 前へ |次へ |
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