《MUMEI》 嘲る様な声を向けられ、だがアリスは何を返す事も出来なかった 唯々目の前で崩れ、壊れて行く世界に ソレを見る事を拒む様に、アリスは顔を両の手で覆い方をしゃくり上げる 最早抵抗する気力もなくなってしまったのか 幼子の様にラビを前に愚図る事を始めてしまう 「……アリス、いい子だ。さぁ、お前の鐘の音をもっと聞かせろ」 ラビの手がアリスに触れる寸前 突然に回された脚にソレは遮られていた 「……それだけの傷を負うてまだ動くか、お前は」 ラビがそちらへと向いて直れば 覚束ない足取りで、だが身構えるエイジの姿 アリスを庇う様にその立ち位置を変える 「それを庇うか。所詮お前も愚かしいヒトという訳か」 相も変わらず嘲る様なラビ 弾みで脚元に転がってしまった時計を拾いあげ、時刻を確認すると 何故か背後へと目配せをする 「……時は、満ちた。マリス、イリス」 呼び声に現れたのはあの双子 鐘の音に二人は聞き入り、暫くしてその姿が変化していった ヒトの姿が徐々に失われ、その全てが人ではないモノに変化していく 鐘を首から下げた二羽のウサギ その二羽がまるで狂いでもしたかの様に、また鐘を打ち鳴らし始めていた 「……いや。止めてぇ!」 音が響けば響く程に アリスが叫び喚く事を始め、喉をかきむしり始める 深い傷を掘ってしまう程のそれに、エイジが両の手を押さえつけてやれば 次の瞬間 アリスの発するソレが、喚く声から音色の様なソレへと変化していた 鐘の音ともヒトの声ともつかない複雑な音 だがその音は確実に世界を終わりへと導いている様だった 草木は枯れ、大地は割れる 空は陽射しを失い、全てを暗く覆い尽くしてしまった 「アリス!これ以上は止めとけ!」 このまま世界を壊させてはいけないと エイジは咄嗟にアリスの唇を自身のソレで覆い、音を飲み込む 身体の中に直接響いてくる音 触れた其処から互いの内に響くその音に、アリスは驚いた様な表情を浮かべた 「……優しい、音。何で……?」 自らが奏でるは終焉の音色 ソレが何故これ程までに優しいソレを奏でるのか アリスはエイジの方を見やっていた 「……この音は、あなたそのものの様だね」 素気ないかと思えば優しく 遠くにいるかと思えばすぐ近くに その事にアリスは安堵したのか肩を降ろし、エイジへとまた口付けを交わした 「何を、している?アリス。早く全てを壊してしまえ!」 鳴る音色が変わった事に、ラビは明らかに動揺し 忙しなく時計を開閉する 見てみれば、その時計は時間を遡るかの様に逆に進む事をしていた 「……全て元に戻るというのか?」 カチカチと高い音を立て、秒針が戻る事をすれば 壊れかけていた世界が時を遡っていく かれた木々はまた咲き、ひび割れた大地は元に そして明るい日差しが大地には降り注いでいた 「何故、元に戻る?マリス、イリス!何をしている!音を、もっと音を――!」 ラビの怒鳴る声に、二羽は懸命に鐘を振る 微かでしかない音色を奏で始めたかと思えば、その鐘は突然に割れて砕けた 「……人如きがわしに背くというのか。創造主たるこの儂に――!」 砕け散っていくその破片を眺めながら 世界を壊す術を失い、落胆に膝を崩すラビ 納得がいかないと奥の歯を噛み締める 「……その人如きを造ったのもテメェだろ。残念、だったな。神様」 無様にも座り込んでしまったラビを見下しエイジは徐に腰を低く据え、身構える 何をする気かとアリスが問えば だがエイジは何を返すこともなく唯笑むだけ 自らの白衣を脱ぐと、視界を遮ってやるようにそれをアリスへと被せてやった 「……もう、気は済んだろ。恨むならヒトなんてもん作ったテメェ自身を恨むんどけ」 何もかもが元に戻ってしまった事に放心状態のラビヘ エイジは躊躇することなくその無防備な首へと脚を蹴って回す骨が砕ける鈍い音が響き その後にラビの身体が崩れ落ちて行った 動かなくなってしまったラビの元へ、ウサギたちが駆け寄っていく ラビの傍らに寄り添い、悲しげな鳴き声を上げる二羽を見ながら 「……俺も、奴と対して変わんねぇな」 ルカ、そしてアリスの母親を殺したラビを憎みながら 二羽のウサギたちの拠り所だったラビを殺してしまった自分 前へ |次へ |
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