《MUMEI》

「そんなに怖かった?ごめんね」
「顔が笑ってる!」
謝る気などないだろう事を指摘してやれば相手は更に笑い
揺れるブランコを唐突に止めていた
「ごめんってば。そんなに怒んないでよ」
「誰が怒らせてんのよ?」
「もしかして俺だったり?」
「もしかしなくてもあんたよ。もう、私帰る!」
服についてしまった砂埃を手で払い踵を返せば
不意にその手首が掴まれた
「ちょっと待ってよ、お嬢ちゃん」
「……何?まだ何か用?」
「怒らせちゃったみたいだから。お詫び、オジさんにさせてくんない?」
「は?」
唐突な申し出
満面の笑みを向けてくる相手へ何を返す間もなく
相手に手を引かれる
「ちょっ……。何所行くの!?」
そのまま歩き始める相手へ
慌てて問い質す事をすれば
だが相手は楽しげに笑みを浮かべるばかりで返答はない
手を振り払ってやろうにも出来ず、されるがままに付いて行くことをすれば
連れてこられたのはファーストフード店
丁度夕食時も重なってか、そこはひどく賑わっていた
「何食べる?」
出入口付近に立て掛けられているメニューを眺めながら相手は尚も笑みを絶やす事はせず問うてくる
人混みは苦手だといい掛けて、向けられる笑顔についその言葉を飲み込んでしまっていた
「……まかせる」
それだけを漸く返せば
先に行って席を取っておいてくれ、との相手にそのままテーブルへ
座って待っていると、すぐに眼の前へとトレイが置かれた
「おまたせ。どーぞ」
「あ、ありがと。いただきます」
食事を目の前にすると、意外にも腹が減っていたのか
大口でソレにパクつけば、多いと感じていたそれをあっさりと完食してしまっていた
「口元に、ソース付いてるよ」
不意に伸びてきた指に口元が拭われて
突然なソレに、思わず身を引く
「……ヒトに触られるの、苦手?」
怯える様なソレに相手が僅かに苦笑を浮かべれば
その事実を知られてしまう事が恥ずかしいのか、あからさまに顔を背ける
「……俺の手は、どうだった?」
「え?」
「此処まで振り払わずにいてくれたでしょ。だから、どうなのかなって」
触れられていても平気だったのかと
相手は窺う様に顔を覗き込んできた
ソレが意識的でなかった事に今更に気づけば
顔を真っ赤にそのまま顔を伏せてしまう
「あらら?どしたの?顔、真っ赤よ」
「だ、誰のせいよ!馬鹿ぁ!」
「え?もしかしてオジさんが悪いの?」
「決まってるでしょ!この鈍感!私、もう帰る!」
派手な音を縦席を立てば
だが不意に手を取られ引き留められる
「そんな寂しいこと言わないでよ。ごめんってば」
謝罪をしてくれながらもその顔は何となく笑っていて
いったい何がそんなに面白いというのか
その漂々とした態度が何となく腹立たしい
「……アンタって、絶対無自覚のタラシ」
「は?」
行き成り何を言い出すのか
突然すぎるソレに相手は流石に困惑気な顔で
尚も続いてしまいそうなその先を、遮っていた
「……お嬢ちゃんがオジさんをどう思ってるかよーく解ったから。それ以上、やめて……」
本気で落ち込みそうだと肩を落とす相手
だがまだ言い足りないとばかりに顔をそむけれ向ければ
相手はどうしたのか、自身のトレイから注文していたらしいポテトを取ると、箱ごと渡してくる
「何、これ」
「口止め料。良かったら食べて」
どーぞ、と勧められやはりまだまだ言い足りないのを何とか堪え、それを食べ始める
「そう言えば」
最中、相手が徐に何かを思い出したかの様に声を上げ
そして
「お嬢ちゃん、もし良かったら名前、教えてくれる?オジさんは藤本 愛美」
突然の自己紹介
行き成り過ぎるソレに虚をつかれ、更にその可愛らしい名前に
一瞬の間の後、つい笑う声を漏らしていた
「オジさんの名前、なんか変?」
「ご、ごめん。そうじゃなくて、何か可愛くて……」
笑う声を何とか押し殺し、だが堪え切れず漏れてしまう声に
相手・藤本は照れた様な、困った様な笑みを浮かべて見せる
「やっと笑った」
「え?」
態々顔を覗き込んでくる藤本
何の事かを問うてみれば
「オジさんね、お嬢ちゃんの笑った顔、実は見てみたかったのよ」
見れて嬉しい、と笑う藤本
言われて、そこで気付いた

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