《MUMEI》
1 天気予報
 『本日の天気は全国的に晴天で――』
朝、テレビが騒々しくその日の天気を予報し始める
初期の片手間にソレを見ていた桜井 歩は
テレビ左上に表示されている時計を見
徐に席を立った
「そろそろ、出掛けないと」
テレビの電源を落とし、床に放り置いてあったカバンを手に桜井は出掛けて行く
行ってきます、と誰も居ない筈の其処へ一人言を呟けば
「……行ってらっしゃい」
何故か声が返ってきた
その事に一瞬の後に気付き、桜井はまた室内を振り返ってみる
だが矢張り室内には誰の姿もなく
空耳かと、そのまま外へ
外は気持ちがいい程の晴天
その陽の温もりにつられ、桜井は自身が通う大学までゆっくりと歩き始めていた
「天気いいな」
歩くにはやはり晴れた日がいい、と
降り注いでくる眩しい程の日差しを手で遮った
次の瞬間
不意に、桜井の目の前へ何かが現れた
「今日はね、僕の日なんだよ」
「え?」
聞こえてきたその声に、何かとそれを伺ってみれば
其処に居たのは、小さすぎるヒト
見た目人形の様に可愛らしいソレが桜井の目の前で忙しなく飛んで回り始める
「……一体、何?」
行き成りなそれに呆然と様子を伺っていると
直後に何かがぶつかる様な音が微かに聞こえ、そして
「痛〜い!」
涙が滲む声が聞こえてきた
どうやら道路表札にぶつかり、そのまま落ちていくそれを咄嗟に受け止めてやれば
その声の主と眼があった
「ありがと」
満面の笑みを向けられ、ついどう致しましてを返す桜井
だがすぐに
目の前のモノに驚きの声を上げる
「な、何なの!これ!?」
改めて凝視してみればソレは本当に小さなヒトで
一体、目の前で何が起こっているのか
桜井は正に混乱の渦中にいた
「……一体何なの?おもちゃ?いや、そんな筈ないわ。大体、私こんなの持ってないし……」
一人言を長々呟き始めれば
その小さなヒトは桜井の手の上に乗ったまま立ち上がり
礼儀も正しくお辞儀をして来る
「……僕、ハル。晴れの日の妖精なの」
「妖、精?」
行き成りのソレに俄かには理解出来ず復唱してやれば
その小さなヒト・ハルは満面の笑みを桜井へと向けてみせる
「……で?私に何か用なの?」
その笑みについ誤魔化されそうになるのを何とか堪え、問う事をする桜井
桜井の問いにハルは暫く小首をかしげて見せた後
背負っていたらしい小さなリュックから何やら取り出していた
「……お天気ノート?」
中を見てみれば其処には
雨だの雪だの曇りだのの天気が記号付きで掻いてあって
一体これが何なのか
首をかしげて見せれば
「……ハルの、友達。探しに、来たの」
「友達?」
「……皆、ハルを置いて何所か行っちゃったの。だから……」
捜すために来たのだとハル
一人が寂しいのか、すっかり肩を落としてしまったヒトへ
桜井は僅かに笑みを浮かべながら指先でハルの頭に触れてやった
その次の瞬間
ポン、という軽い音を立て、辺り一面に白い煙の様なものが現れる
一体何事かと驚くばかりの桜井
暫く呆然と立ち尽くしていると段々と視界は晴れて行き
ハルが居たその場所に、何故か見知らぬ男が一人座り込んでいた
「アンタ、誰?」
桜井の問う声も尤もで
だがその男は桜井の方を見やり、何故か困惑気な顔をしてみせる
その仕草は何となくだがハルに似ている様な気がした
「……アンタ、もしかしてハル、なの?」
俄かには信じられず、だが一応は聞いてみれば
目の前の男は満面の笑みを浮かべて見せ
その顔は、先程見たハルのソレそのものだった
「うそ……」
つい声を出してしまえば
目の前の青年は笑顔のまま首を横へ
「嘘じゃ、ない。僕、ハルだよ」
「で、でもハルってこんな小さくて、それで……!」
「今日は、晴れ。だから僕も大きくなった」
説明はしてくれるモノの簡潔すぎて
桜井は未だ混乱の渦中にいた
「……落ち着いて。落ち着くのよ、歩」
道の往来であるという事を既に忘れ、座り込む桜井
幸い、早朝で人通りがなく、そのやり取りを誰かに見られていなかったのがせめてもの救いで
ハルの手を徐に掴むと桜井はそのまま大学の方へと走りだしていた
「何所、行くの?」

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