《MUMEI》 「颯太さんだっけ……?離れてくれる?」 「あ、すみません。予想以上だったもので。」 至近距離でまじまじと見つめられて複雑だ。 「仕事場でってのは、嘘でしょう。俺の前の仕事場はホストクラブだったし。記憶にないな。」 「ホストぴったりですよね!」 「……そうなの?有難う。」 あんまり熱心に見つめてくるから逸らしてしまう。 「はい、妻も貴方の店にのめり込んだんです。俺は当時、アトリエに篭りきりでしたし……それでいつの間にか離婚してました。」 そういう経緯か。 「貴方を訴えようと探偵を雇ってたんですが……妻に幻滅してしまいました。」 颯太さんがじりじり寄ってくる。 「ヘエー。そうなんだ?」 「貴方の身辺調査をしてゆくうちに、どんどん惹き込まれていったのです。しかし、以前の仕事をあっさり辞めて転職してしまいましたね。」 「今のは適職だよ。」 不規則な時もあるから大差ないけどな。 「その、じゃあ彼の為にマネージャーになったというのは本当だったんですね。貴方をそこまで惹きつける彼がどんな人なのか……もっと知りたいです。興味あります。ヘラヘラしてテレビに媚びを売る綺麗なお人形というだけじゃないのでしょうか。」 こいつ、失礼なやつだな。 芸術家気質な奴ってどっかイッちゃってるの居るよな……典型的なソレかもしれない。 「お人形なんて可愛いもんじゃないし。反抗するし暴れまくる。 あれは生きてて、俺の中では何にも代え難い。ああ、お前の雰囲気に似てるかも……奥さん絶対お前の考えと合わなくてノイローゼとかになりそう。」 「妻がノイローゼで裁判で慰謝料要求してきたのを何故知ってるんですか?」 「知らないよ……あてずっぽう。仕種見ながら言っただけ。」 グラスを飲むときはいちいち半回転して、コースターの右辺りにずらして必ず配置したり、無秩序に見えて実はきちんと統制取れた行動なところを見てると、こいつがどんな奴なのか考えさせられた。 それに気を取られてると、深くにも口に含んだアルコールの不自然な味を吐き出せなかった。 前へ |次へ |
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