《MUMEI》
帰り道
「ちょ、琴吹くん!!どうしたの?」

今宵の手を握り、ずんずんと先へ行く紘に声をかけた。

何でこんなことに?

紘はゆっくりと足を止め、状況をよく飲み込めていない今宵の方を向く。

そして今宵の目線の高さまで体を縮め、大きな手を頭にポンッとのせた。

「・・・・・・よく頑張ったな、今宵ちゃん。もう我慢しなくていいんじゃね?」

「な、何言ってるの?琴吹くん」

真剣な眼差しで今宵の目を見つめる紘にうろたえる。

「バレバレだよ〜今宵ちゃん。だからもう、大丈夫だから。ね?」

固まっている今宵に紘は、いつもとはまた違う優しい笑顔を向ける。

何で・・・・・・?

何で琴吹くんには分かっちゃうんだろ。

さっきから泣かないように堪えていたのに。

「ったく、今宵ちゃんは意地っ張りだなぁ。今堪えたら余計辛くなんだろ?」

紘は呆れた笑いを浮かべながら、今宵の頭をワシャワシャと撫でた。

琴吹くんのバカ・・・・・・。

今宵の目尻からいくつもの雫が零れる。

「も・・・・・・折角堪えてたのにぃ・・・・・・っ。何・・・・・・でそんなこと言うの?」

こんなこと言おうとしてるんじゃないのに。

何で勝手に出てきちゃうの?

今宵の口からは考えていることとは反対の言葉が出てくる。

紘は今宵の目尻に洋服の袖を当てて擦ると、ニカッと笑った。

「バーッカ!!我慢しなくていいって言ったろ!?もう見ないからさ、もっと泣いちゃえよ」

紘は今宵の頭をもう一撫ですると、先ほどと同じように手を再び掴んで歩き出した。

「ありがと・・・・・・っ」

今宵は涙を隠すように俯きながら紘の後を追った。

琴吹くんがいなかったらどうなってたんだろ。

さっきは私を見て無理してるのが分かったから連れ出してくれたんだよね。

琴吹くんが連れ出してくれなかったら、きっと歩雪くん達に迷惑かけてたんだろうな。

・・・・・本当にありがと、琴吹くん。

今宵の涙でにじんでいる目には、紘の大きく優しい背中が映っていた。

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