《MUMEI》
Re:1件目
ぱちり、目を開けるといつもの屋上が広がっているだけだった。
「お、オハヨ」
僕の親友はひどくお調子者で、けれどひどくあっさりとした性格をしていた。
携帯を取り出して時間を確認すると、ちょうど昼休みが終わる10分前だった。
よく寝てたなと笑う親友を見ていたら、さっきまで見ていた夢の内容が頭から吹き飛んでいった。
さて、何を夢に見ていたのか……。
教室に戻ろうと体を起こして立ち上がる。
足元に感じるのはコンクリートのかたい感触。
ふいに、右手の小指がうずいて手を挙げる。別になんの変化もない、いつもの自分の小指だった。
「……」
「何、小指なんか出して」
指切りげんまんでもすんの? そう言って自分の小指をちらつかせる親友を見ては夢の内容を思い出して、そして忘れる。
「指切りげんまんか……」
「?」
「誰かとやったような気はするんだけどな……」
「そりゃ、小さい頃とかに誰かしらとやってんじゃん?」
ケラケラと笑う親友をよそに、僕は首を傾げている。
幸いというかなんというか、今まで生きてきた17年で色々な友達ができた。
それは今隣で笑っている親友もそうだし、同じクラスの女子や先輩後輩の中にも仲のいい相手はいる。
そのうちの誰かと指切りげんまんをしたのだろうか。
友達の顔を一人一人思い浮かべて意外と沢山いたことに気付く。
何故だかそれが嬉しくて、このことを誰かに報告したいと思った。

けれど。
「誰か」って、誰?

また小指がうずく。
いつかまた会うのかもしれない、指切りげんまんをしたかもしれない「誰か」に思いを馳せて、僕は屋上をあとにする。
廊下は少しだけ空気がよどんでいて、水の中にいるようだった。



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1件目
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