《MUMEI》
Re:2件目
「この、ストーカー!!!」

いきなり怒鳴ってきた彼女は、去年の秋頃ちょっとだけ気になっていた子だった。
名前は何だっただろうか、学祭のときに見かけて「ちょっと可愛いな」と思っただけだったから知らないままだ。
そもそも、正直知りたくない。
だって彼女は、ストーカーだから。
「って、あれ?」
俺は疑問符を浮かべる。
なんで俺がストーカーに仕立てあげられているんだ?

「知ってるのよ! 私、知ってるの!!!」
彼女はただただ捲し立てる。
「アンタがどこの誰で何をしてるかも! 身長体重何が趣味で何が得意でいつどこでどのくらい私を見たかだって……!!」
「いやちょっと待て、それって明らかにアンタの方が俺のこと見てんじゃん!」
辺りが騒がしくなる。「何、ケンカ?」「ストーカーがどうたらこうたらとか……」違う、違うんだ俺は悪くない!
目の前が揺らめく。ああ、なるほど、俺は多分涙目になっているんだ。
野次馬の視線が怖くなったところで、誰かが俺の肩を叩いた。
振り向くと学科主任が気の毒そうに俺を見ていた。彼女は彼女で数人の先生や学生に取り押さえられているようだった。

その後、結局俺のストーカー疑惑は晴れて、彼女を見かけなくなった。
事情を説明する際に彼女との関係について聞かれたけれど、俺にはどうすることもできなかった。
だって、俺からすれば彼女は精々顔を見たことがあるくらいの「誰か」でしかない。
俺は、彼女の名前すら知らないんだ。



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2件目
「被害者だと思っていたストーカー」から「ストーカーだと思われていた被害者」へ

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