《MUMEI》
冷たい
今宵は家に入ると、すぐに階段をバタバタと上った。

「今宵ー!?帰ったのー!?」

今宵の耳に心配そうな加奈子の声が入る。

今宵はそれを遮るような大きい音を立てて自分の部屋に入った。

「こんなに目腫れちゃった・・・・・・」

鏡を見て呟くと、そのままベットに倒れる。

こんなに泣いたのいつ以来だろ。

それも歩雪くんじゃない誰かに隣にいてもらうなんて。

・・・・・・初めてかもしれない。

いつもどんな時でも歩雪くんが隣にいてくれたから。

でも、もう歩雪くんの隣にいるのは私じゃないんだ。

当たり前だと思っていた距離が遠くなる。

「・・・・・・まいったなぁ。こんなに辛いなんて」

今宵はコツン、と額に手を当てて仰向けになると、目尻に光るものが見えた。

「今度会う時は笑うから。今日だけ・・・・・・」

頬に伝う涙が冷たい。

この冷たい感触が心にも伝わりそうだ。

もう歩雪くんには迷惑かけられないから。

そしたらもう、歩雪くんの呆れたような笑顔も、優しい眼差しも見れないんだ―。

今宵は一晩中冷たい感触と隣合わせだった。

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