《MUMEI》

 「槐、鬼首の様子は?」
あのまま意識を失ってどれだけ経ったのか
広川はか細く聞こえてくるその声にゆっくりと意識を取り戻していた
今自分が何所に居るのか、辺りを見回してみれば
ソコは以前に連れ込まれた槐の自宅だった
漸く置きあがり寝床から出
閉じられている部屋の襖を僅かに開く
隙間から窺い見えたのは槐と幼い少女
交わされる会話を何気なくそこで聞いていると
突然に襖が開かれた
「眼が覚めましたか。具合はどうです?」
ようすを窺いに広川の傍らへと近く寄った
反射的に後退り
だがそれより先に、槐に腕を掴まれてしまう
「……お前ら、一体何なんだよ。俺が一体何したて言うんだよ!?」
訳が分からなくなって島ている現状に冷静さを欠き喚く広川
何とか手から逃れようともがくばかりの広川を槐は無言で眺め
暫くして、その首を掴み上げると床へと押し倒す
「あ゛……」
「……俺は、あなたの鬼。俺の鬼姫、良く戻ってきてくれましたね」
言いながら広川の首筋に指を這わす槐
だが矢張り槐が何を言って居るかが理解出来ずに
広川の頬へ無意識に涙が伝う
「……瑞希?」
涙に嗚咽さえ漏らす広川
何故、泣いてしまうのかと槐が困惑気な表情を浮かべれば
「……首晒(くびさらし)にでも連れて行けば?」
そうしたら思い出すかもしれない、と少女からの冷静な声
「……随分な荒療治ですね」
「このままだと埒明かないから」
事はてっとり早く済ませたい、と少女
槐は苦笑ばかりを浮かべていたが
仕方がないと肩を落とす
「……目覚めてくれればいいんですが」
「……大丈夫。目覚めなければ殺せばいいから」
「余り、穏やかではありませんね」
槐が苦笑を浮かべて見せれば
だが少女は意に介することもなく
さっさと行って来い、と槐へと手を振って見せた
「……では、行きましょうか」
苦笑を浮かべたままの槐に抱え上げられ広川はそのまま庭へ
有り得ない程広いソコをどれだけ歩いたのか
不意に地の臭いを感じ、そして槐の脚が止まる
「……!」
「驚きましたか?此処は首の社。古くから鬼首が祀られている場所です」
生臭いソレが漂う其処を見せられれば
小さな社の周りに大量の首
ソレが一斉に動く事を始め、広川の方へと向いて直った
「な、んだよ。これ……」
「中々に、壮観でしょう?」
見れば槐は満面の笑みを浮かべ、そのまま広川の後ろ髪を引っ掴む
見たくもない惨状から眼を逸らそうにも叶わず
感じすぎる恐怖に、広川の眼尻に涙が滲んだ
「……何故、泣くんですか?瑞希」
「……知、るか!」
這って見せるせめてもの虚勢
だがその強がりも、槐の前では何の役にも立ちはしない
「これが、あなたの末路。貴方がこの先行き付くであろう未来です」
「……これ、が俺の末路……?何で?」
一体なにをどうすれば此処に行き付くというのか
槐の方を不安げに振り返る
「……こうはなりたくないでしょう。瑞希」
「お、俺、何も、解らな……」
「解らない、というのはいっそ罪ですよ」
「そんな、事……」
ならば教えて欲しい
鬼首とは一体何なのか、鬼姫とは何なのかを
そして広川自身と何の関係があるのかを
「……それは、今話すべきではない」
だが槐から明確な答えはなく
無言のまま、広川をまた担ぎあげ来た道を戻っていく
「今日は、俺の家に泊ってください。連絡は、しておきますから」
何も語る事はせず、誤魔化すかの様な笑みを浮かべる槐へ
広川は何度か首を緩く振ると、突然に暴れ始めた
「瑞希!?」
行き成りのそれに槐は広川を取り落とし
出来たその隙を借り、広川は槐へと背を向け走り出す
首塚とやらに行けば、何かが分かる
取り敢えずはどういう形であれ現状を打破できる、と
当てもなく、広い庭を探し始めていた
だが探せどそれらしきモノは見当たらず、広川はその場へと座り込む
今になってまた首が痛みを訴え始め
膝を抱え蹲ってしまっていた
「……一体、何なんだよ。もう、訳わかんねぇ……」
この状況から逃げ出してしまいたいと
立てた両膝に顔をうずめ俯いていると
「……此処に居たか。鬼姫」
頭上から声が降ってきた

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