《MUMEI》

「…?」



田中が、口を開けて見上げてくる。



「俺の顔、何かついてる?」



どうして田中が固まってあほ面をこちらに向けているのかは分かっているが、取りあえずわざとらしいくらいに笑顔で問いかけてみる。




「…あ?山男は?…善彦さっきまでグランドにいなかったか?…あっれ???」




活動を再開したらしい田中はようやく、俺が想像していた通りの疑問を並べてくる。


「ちょっと忘れ物取りにきたんだよ。すぐ向こうに戻るし。チカラは…俺が来た時にはいなかったけど?」



「あ、そうか…ん?なんだ、ぼーっとし過ぎて寝てたかな…?さっきまで山男と話ししてたのにな。」




頭を掻きながら呟く田中を見て、少しだけ罪悪感に捕らわれる。




田中とは、善彦に遅れる事1ヶ月弱でチカラがスレシルに覚醒した後に、話をするようになった。




もともと同じクラスだったものの、チカラと田中はイベントにもあまり協力的とは言えないタイプで、逆に俺はイベント事には先頭きって盛り上がる方だったからか、知らないうちに壁があった。






どういう訳かスレシルになってしまった俺は、変わっていく自分に酷く困惑していた。


そんな時にチカラが仲間だと分かり、1人じゃないと言うだけで心の底から安心を覚え、なんとかこの境遇を受け入れることができたのだ。





1人じゃない事がこんなに心を強くさせてくれるなんて思いもしなかった。







いつしか、今まで一緒にいた友達といる時間よりも、チカラと一緒にいる方が多くなっていた。



でも、チカラはスレシルになったからと言って、別に今までと変わらない生活を送っている様で、いつもチカラと一緒にいる田中を交えた3人でいる事が増えていた。

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