《MUMEI》

友達と遊びに行くから、と見え透いた嘘をつけば
暫くの間の後
『……解ったわ。あまり遅くはならない様にね』
短いやり取りで、電話は切れた
「じゃ、行こっか」
「行くって、何所に?」
有無を居合わさず引っ張っていく藤本へ慌てて問う事をすれば
藤本は僅かに首だけを巡らせ、口元だけで笑ってみせる
結局、それ以上何を語る事もしなかった藤本へ連れてこられたのは
「……ゲームセンター?」
意外な目的地に、つい藤本の方を見やれば
徐に、佐藤の手の平に千円札を握らせる
両替をしてきてくれ、との藤本に
向けられる子供の様な笑い顔にそれ以上何を問う事も出来ず頷いてしまっていた
「はい。してきたよ」
両替してきた千円分の百円を手渡せば
その半分を藤本は佐藤へと渡してきた
「半分こ。好きなゲームやっといで」
「で、でもこれアンタの……」
「いいから。ほら」
行って来いと背を押され
取り敢えず佐藤はその中を歩いて回る
何をやろうか迷っていると、クレーンキャッチャーの前を通りかかった
狭いその機械の中に押し込まれている人形たちの中に
その中に一つ、可愛らしいソレを見つける
「……あれ、可愛い」
取れはしないだろうか、駄目元でやってみようと貰った百円を入れ掛けた、その直後
佐藤が入れるより先に、背後から伸びてきた手が百円を入れる
「あれ、欲しいの?」
「え?」
向いて直ればやはり藤本で
「取ってあげようか。オジさんこういうの得意よ」
「べ、別にいいって!私、そんなの……!」
「欲しいんでしょ」
任せなさい、と藤本は片眼を閉じて笑って見せた
得意といったその言葉通り
藤本は佐藤が欲しいと言った人形を一回で取って見せる
「どーぞ」
渡された人形をまじまじ眺め
嬉しいのか、佐藤の表情に微かな笑みが浮かんだ
「あ、ありがと」
本当に素直に、感謝のソレが出た
「どう致しまして。他に何か欲しいモノある?」
取って上げる、と手の平で小銭を遊ばせる藤本
佐藤は暫く辺りを見回し、もういいを返し
そして不意に、店の隅にとあるモノを見つけ暫くそれを眺め見る
「……どうかした?」
藤本がその視線を追い、そちらへと向いて見れば
其処には今は随分と懐かしいモノに鳴ってしまったプリクラの機械
佐藤がそれを見ていた事に藤本はフッと口元を緩ませると、その手を引いていた
「ちょっ……!?」
行き成りのソレに、文句を返そうとすれば
だがそれより先に機械の前へと引き込まれてしまう
「笑って。中」
「そんな、行き成り……」
「ほら、シャッター下りるよ」
笑って、と今度は満面の笑みを向けられ
その笑みにつられ、佐藤は戸惑いがちにだが笑みを浮かべて見せた
「……アンタって本当」
「変な奴?」
佐藤の言葉を先読みし、ちょうどそこでシャッターが切れる
取れた顔は随分と酷いソレで
佐藤は急に引っ張った所為だと藤本を八当たりに責めた
「ごめんってば。はい、半分こ」
いつの間にか半分にした写真を佐藤へと渡し
藤本は徐に腕時計を見やる
「……もうこんな時間か」
帰るに続くであろう前振り
ソレが何となく寂しいと感じてしまう佐藤
無意識に藤本の服の裾を掴む
「……もう、帰らないとだめなの?」
つい上目づかいになってしまえば、瞬間藤本は呆気に取られ
そしてすぐに、何か困った風な笑みを浮かべた
「……まいったね」
「なに?」
「そういう顔でそう言う言葉、オジさん以外の男の前で言っちゃ駄目よ」
「……?」
藤本の言葉の意味をイマイチ理解することが出来ず
首をかしげて見せれば
何でもない、と苦笑交じりの声が返ってくる
「明日、今日と同じ時間に、同じ場所でね」
耳元に近く寄ってきた唇から呟かれた言葉
まさかそんな言葉が返ってくるとは思わなかった佐藤が
弾かれたように藤本の方を見やった
「……何で、アンタは明日も私なんかに会いたがるの?」
話すと言っても互いに交わす言葉は未だ少なく
そんな相手に何故会いたいと思えるのか
ソレが本当に不可思議でならない
「唯、会いたいから。それじゃ、理由になんない?」
返ってきたのは最もシンプルな答え
唯、会いたいから
自分なんかに会って一体ないが楽しいのか

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