《MUMEI》

「関谷、勘違い。」



「…あ?」



峰田が割って入る。


この時状況を理解していたのは峰田だけだった。



「『噂の』ってお前が有望株の新入部員になってくれるかもって俺が話したからそういう表現になっただけだから。」



ユキヒロと関谷の会話は噛み合っていなかった。



『峰田から聞いた話』



という言葉を『噂の』と表現したユキヒロだったが、


関谷は自分の起こした事件に対しての『噂』として捉えていた。


第一印象は互いに最悪だった。



「…有望株の新入部員って?」



詫びることなく関谷は話を戻す。



(すげぇなこいつ…)



ユキヒロはさらに驚く。



「あぁ、俺ハンド部入ったからさ。


お前もどうかなって。


何か足速い奴探してんだと。」



説明する峰田。



「ハンド部…?」



関谷の表情が変わる。


そして、



チラッ…



関谷は一瞬教室内に目を移す。


視線の先は空席の机。


本来ならば、



「ハンド部って…」



猪狩が座っているはずの席だ。



「あいつは関係ねえよ。」



その反応から、


関谷が『ハンド部大量退部事件』のことを知ってるであろうことを、


ユキヒロは察した。



「へぇ…」

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