《MUMEI》

聞いてやろうと佐藤は口を開き掛け、だがすぐに口を噤んだ
「じゃ、帰ろっか」
藤本に手を引かれ佐藤はされるがまま後について歩く家までの道程を説明してやればすぐについてしまい
藤本は佐藤が家の中に入るまで見送ってくれる
「あ、ちょっと待って。中」
途中、何故か引き留められ向き直って見れば
手の平に何かが押しつけられていた
「じゃ、また暇だったら連絡頂戴」
そう言いながら藤本が佐藤の手に押しつけて来たのは
皺だらけのレシート
一体何なのか、裏を見てみれば
随分と汚い文字でメールアドレスの様なそれが記されていた
「……字、汚い」
その事を指摘してやれば困った風な笑みを浮かべて見せる藤本
その様に佐藤は冗談だと僅かに笑って見せると
「……これ、私の携帯番号とアドレス」
鞄から慌てて紙を取り出し、書き殴ったソレを藤本へと渡す
「じゃ、またね」
自らの行動に何となく照れ、
つい素気ない口調になってしまった事に藤本も気付いたのか
「うん。また、今度ね」
だが何を指摘するでもなく、佐藤へと手を振って見せた
佐藤は後ろ手にソレを返し
そのまま自宅へと入っていたのだった……

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